NEW!【開業構想シリーズ】「このビールが飲めるのはうちだけ」がなくなりつつある今、ビアバーは何を差別化すべきか

こんにちは。渋谷の激混みビアバーで、毎晩狂ったようにお客様を捌き、ビールを注ぎ続けている現役店員のさとしです。

最近、カウンター越しにお客さんと話していたり、同業者の先輩たちと飲んだりしていると、必ずと言っていいほど話題に上がるテーマがあります。それが、「昔ほど『レアなビール』で人が呼べなくなったよね」という事実です。

ほんの数年前まで、海外の超有名ブルワリーの限定樽や、日本初上陸のヤバいビールを1樽でも繋げば、それを聞きつけたビアギークたちがこぞってお店に押し寄せていました。まさに「このビールが飲めるのはうちだけ」という最強のキラーカードがあった時代です。

しかし今はどうでしょう。素晴らしいインポーターさんたちの絶え間ない企業努力と、コールドチェーン(低温物流)の発展により、かつては幻と言われたような海外ビールが、都内の至る所で比較的簡単に手に入るようになりました。(インポーターについては以前まとめた[クラフトビールのインポーター/輸入業者 25社まとめ]も参考にしてください。)

これは、いちビールラバーとしては手放しで喜ぶべき、最高に幸せな環境です。しかし「ビールを提供する側(飲食店)」として考えると、少しゾッとする現実でもあります。

どこに行っても美味しいヘイジーIPAが飲めて、クオリティの高いサワーエールが繋がっている。そんな「美味しいビールがあるのが当たり前」の時代に、僕たちビアバーは何を武器に戦い、どうやってお客さんに選ばれればいいのでしょうか。

2028年にワイルドエール専門バー『WILD ALE CLUB』の開業を控える僕なりに、現場の最前線で考えている「3つの差別化戦略」を書き留めておきます。


1. 究極の「提供品質」でビールのポテンシャルを引き出す

同じインポーターから、同じブルワリーの、同じ銘柄の樽を仕入れたとします。しかし、A店で飲むそれと、B店で飲むそれは、全くの別物になることが多々あります。

違いを生むのは「どう提供するか」というハードウェアと技術の差です。

ビアスタイルに合わせて緻密にガス圧を調整し、適温で提供できているか。分厚いジョッキで出すのか、それとも香りを最大限に開かせるグラスで出すのか。泡の立て方、液体の流し込み方ひとつで、口当たりは劇的に変わります。

僕があえて家飲みでも分厚いパイントグラスを避け、極薄のタンブラーに執着するのもこれが理由です。「あそこの店で飲むと、なぜかいつも他より美味いんだよな」と言わせる提供品質へのこだわり。これは、資本力(仕入れ力)に依存しない差別化になります。

(グラスへのこだわりは[家飲みワイルドエールは、あえてワイングラスを外す]でも書いた通りです。)

2. 「何でもある」を捨て、専門性を研ぎ澄ます

「IPAも、スタウトも、サワーも、ピルスナーも、バランス良く10タップ揃えています」

これは一見すると優等生で素晴らしいお店ですが、これからの時代「どこにでもある良いお店」として埋もれてしまうリスクを孕んでいます。

だからこそ、あえて「特定のものしかない」という尖り方が必要だと思っています。

僕が2028年に開業するお店で、ワイルドエール(野生酵母やペディオコッカス等のバクテリアを使ったビール)に特化したコンセプトを掲げているのもそのためです。万人受けは絶対にしません。でも、その酸味と野生のロマンに魅せられた人たちにとっては、他のどの店でも代替できない場所になる。「広く浅く」ではなく「極端に深く」。エッジを研ぎ澄ますことでしか、個性は生まれないと思っています。

(お店の名前の由来は[お店の名前は「WILD ALE CLUB」]で書いています。)

3. 結局最後は「人」であり、空間を調律するバーマンの存在

そして最後に行き着くのは、非常にアナログで泥臭い結論です。

美味しいビールがどこでも飲めるなら、お客さんは何を基準に店を選ぶのか。それは「誰から買うか」「その店でどんな空気を味わえるか」だと思っています。

お店の名前に、あえて「Bar」ではなく「CLUB」という言葉を入れたのは、ここが一つの居心地の良いコミュニティであってほしいからです。ただ、誤解してほしくないのは、「一部のギークだけが身内で盛り上がる、排他的で入りづらい空間」にしたいわけでは決してないということ。

僕が目指すのは、ふらっと入ってきた初見のお客さんが、隣で飲んでいるギークの存在にすら気づかず、穏やかに自分の時間を楽しめる空間です。

ギークはギークで、マニアックなロマンやインポーターの話題にどっぷり浸って楽しめる。一方で、たまたま看板を見て入ってきたライトなビール好きのお客さんは、心地よいBGMと美味しいお酒にただただ癒やされて帰っていく。この両極端な客層が、何の摩擦もなく自然に共存している状態。これが、僕の思い描く「CLUB」です。

(ただ、元々「目的来店」が多くなるようなお店に設計する予定なので、本当に何も分からずふらっと入ってくるお客さんが実在するのかは微妙なところ)

この空気感を作り出し、絶妙なバランスでコントロールできるのは、間に立つバーマン(店員)しかいません。扉を開けて入ってきたお客さんの求める温度感を瞬時に察知し、合わせていく。この「空間を調律する」という仕事に自分のエネルギーを注ぎたいからこそ、裏側のオペレーションはできる限り機材で効率化しようと考えています。

(レジ選びについては[金曜の激込みカウンターが教えてくれたPOSレジの話]にも書きました。)

どんなにAIや流通が発達しても、空気を読み、お客さん一人ひとりにとって居心地の良い空間をデザインするバーマンの存在だけは、他の店にはコピーできないはずです。


おわりに

「このビールが飲めるのはうちだけ」という時代は終わりました。でもそれは、ビアバーが不要になるということではなく、「ビールという液体を通して、どんな体験を提供できるか」が問われる、本当の実力主義の時代が始まったということだと思っています。

2028年のオープンに向けて、この壁をどう乗り越えていくか。これからもこのブログで、泥臭く発信していきます。

この記事を書いた人
さとし

ブログ歴4年ほど、渋谷のクラフトビールバーで働く28歳。元アシスタントブルワー。2028年頃にワイルドエールをテーマにしたバーを開業する予定です。好きなビアスタイルはランビック。

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ビアバーのカウンターから、最高の一杯を。

元ビール工場スタッフで、現在は渋谷のビアバー店員として毎日ビールを注いでいます。
知識だけじゃない、現場の空気感や「本当の美味しさ」を伝えたくてこのブログを始めました。
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