【開業構想シリーズ】サワーエール専門のブルワリーを作りたい

「布石が肝心」と亡くなった祖父が言っていたので、店舗開業のその先の構想をシェアしたいと思います。

今回は「ブルワリーを作りたい」です。

今回で3回目の「開業構想シリーズ」ですが、思っていた以上に反響があって、応援や協力したいとのお声をいただいています。本当にありがとうございます。引き続き、InstagramのDMなどからご感想、ご意見お待ちしております。

自分が考えてきたことを形にしていくことで、思わぬ縁に巡り会えることもあるので、なるべく分かりやすく言語化して、一つ一つブログ記事にしていきたいと思います。

(注:今回は少し詩的な雰囲気になってしまいました。普段は叙事的な記述を心がけています。)

開業構想シリーズとは

しがないビアバー店員が、独立開業までの成功談や失敗談、思索をブログで不定期連載するシリーズです。詳しくは下のリンクをご覧ください。

ついでに、筆者(satoshi)は何者?という方向けには簡単なプロフィールをご用意しています。

ブルワリー開業構想の背景

店舗開業もまだ実行していないのに、なぜブルワリー開業の話をするのか。普通に考えれば、地に足がついていないように思えます。この話をするために、まずは僕の人生のミッションについてお話しさせてください。

僕の最終的な人生のミッションの一つは「サワーエールを日本に広めたい」です。

サワーエールを広めるためにシャルキュトリのペアリングバーも開業しますし、サワーエールを広めるために自分の納得のいくブルワリーも作るということです。これら2つは手段であり、ミッションを達成するための「点」であって、それを線にするツールの一つがまさにこのブログです。(また「点」はこの2つ以外にもありますが、これはまた別の記事にします。)

そして必然的に、開業するブルワリーはサワーエールを専門的に、あるいはサワーエールを主力として醸造するブルワリーということになります。詳細は後述しますが、まずは僕とサワーエールの出会いについても触れさせてください。ここはかなり思い出チックなので、お急ぎの方は「ブルワリーのコンセプト」まで読み飛ばしてください。

サワーエールとの出会い

大学生アルバイターとしてビール業界に入ったのは19歳。それからおよそ1年後、ようやくお酒が飲めるようになりました。お店でもテイスティングさせてもらえるようになり、いろんな種類のビールを飲みました。

しかしこれといって好みのビールはなく、強いていえばRogueのYellow Snow Pilsner(終売)というラガービールが好きかなあ、くらいでした。(ちなみにこのビールについて詳しくは以下のブログをご覧ください。懐かしいなあ。)

大手を振って飲み歩けるようになったので、バイト先近くの飯田橋のビアバーにも入り浸るようになりました。そこで見つけたのが、まさに「サワーエール」というものです。インポーターさんの多大なる努力のおかげで、当時でも西海岸のヘレティック(Heretic Brewing)やスクーナーイグザクト(Schooner Exact Brewing)のサワーを飲むことができました。

バイト先に出勤して「サワーエールなるものをあそこのビアバーで飲んだ」ことを先輩バーテンダーに話すと、先輩はさらっと「ああ、サワーね。ランビックとかも飲んでみたら?」という話になりました。

このことはよく覚えていて、そもそも「サワーエールなるもの」が先輩バーテンダーやビール界隈の人には既に常識的に知られていることが驚きでしたし、「サワーエールなるもの」の起源のようなもの「ランビックなるもの」があることを初めて知りました。聞くところによると「ランビックなるもの」はベルギーでしか作られておらず、しかも特殊な製法を用いていることをそのとき知ったのです。

そこからお店に行ってサワーがあればサワーを飲み、また、目白「田中屋」などでランビックのボトルを買って家で飲むようになりました。

ラガーしか飲まなかった世代の人がBrewDogの「パンクIPA」やStoneの「IPA」を飲んで衝撃を受けたのと同じように、僕は「サワーエール」を飲んでとてつもない衝撃を受けたのです。

バイト先でイベント営業させていただいた2018年21歳の誕生日では、「BFM」(スイス)のストロングサワーエール「Abbeye de Saint Bon-Chien(通称ボンシェン)2014」のマグナムボトルを計り売りしたり、好きが高じてベルギーの最も伝統的なランビックの作り手である「カンティヨン」醸造所に単身で見学に行ったりもしました。

こうして僕はサワーエールの魅力に取り憑かれつつ、一方でサワーエールに向けられた消費者の実際の目、すなわちIPAなどに比べて圧倒的に不人気であることや、そもそもの認知度の低さも同時に知ることになり、サワーエール布教への思いが芽生えることとなります。

ブルワリーのコンセプト

一言で言えば「サワーエール専門のマイクロブルワリー」です。1回の仕込み量は300L~400Lで、ステンレス貯酒タンクも300L~500Lのものを数基(これは日本国内で考えても小規模醸造所にあたります)、あとはバーボン樽やシェリー樽、Foederを使った木樽熟成がメインのブルワリーになると思います。

収入の柱は、ステンレスタンクを用いたケトルサワー(もしくはフィリーサワー)の個人向け缶販売ですが、傍では木樽熟成にチャレンジしたいと思っています。

(技術革新によって別の醸造技術が誕生し、作り手のスタンスや顧客の嗜好がガラッと変わることはあるので、計画は柔軟に変更していくべきだとは思います。)

樽熟成にこだわる理由

日本のクラフトビールがブームで終わってしまうとしたら、それは生産されたビールと日本風土の結びつきが弱まったときだと仮説を立てています。ワインは北部を除いたフランスの気候にブドウの栽培が適していたから生産できましたし、ドイツでは大麦麦芽を生産する広大な畑があります。イギリスでもホップの産地がありますし、いうまでもなくアメリカ西海岸のYakima Valleyは世界一のホップ生産の地です。他方で、日本では昔から日本酒の製造が行われてきました。これらに共通することは、風土との結びつき、つまり「気候や地質などの風土」がその土地の個性的な酒を作る大きな要因の一つであるということです。したがって、風土に関係なく、ただアメリカを中心に巻き起こっているクラフトビールのムーブメントを真似て、異国風情なビールを作っているだけではいけないと考えています。

日本のクラフトビールシーンでも、地域の特産物を副原料に用いて土着の文化に浸透しようする動きがあります。大麦麦芽やホップは、国内のものだと高価で供給が安定しないため、大部分は輸入品に頼らざるを得ません。(国産と輸入品における品質の良し悪しは全く別の話で、国産原料だから良い、輸入品だから粗悪品ということではありません。)よって、副原料の果物や香草、米、麹などを用いた試みによって、単なる欧米から取り入れたクラフトビールをブームで終わらせないような、地域の個性が出るような生産がされているのだと推察します。

僕はこの個性を、日本の風土を生かした「熟成」という概念で表したいと思っています。日本国内で野生酵母を用いたランビックスタイルのビールを作ったとしても、それは永遠に「ランビック」にはなりません。(そもそもランビックは模倣することすら難しいです。)そうであれば、日本特有の気候を生かした熟成で、個性的なサワーエールを作れないかなと考えています。

具体的な熟成方法や、熟成する場所は全く決まっていません。ただ、日本は基本的に四季がはっきりしていて森林が多く、他国に比べて面積当たりの土地の高低差もありえないくらい大きい。さらに周囲は海で囲まれているため、風の移り変わりも季節によってかなり異なります。最適な熟成場所を見つけるのもまた楽しみですし、いくつか日本国内に貯蔵庫を設けて、異なる気候で熟成させたビールをブレンドするなど、方法はいくらでもありそうです。

ワイナリーとブルワリーの境界線上

嫌いなものや興味のないものには、他人が働きかけてもそうそう好きになったり、関心を持ったりするものではない。悲しいですが、今までの短い僕の人生経験上、これは「真」です。

クラフトビール、ことサワーエールに関してもこれが当てはまると思っています。つまり、サワーを一度飲んで「口に合わない」と思った方に勧めても、ただの迷惑にしかならないのです。

よって、別の糸口を見つける必要があります。

それがワイン市場です。

キリンホールディングス傘下のメルシャンによると、2020年時点でのワインの年間消費数量は347,000KLだそうです。これは近年の日本国内のクラフトビール年間出荷量と比べると、少なく見積もっても25倍以上*あります。

ワインはサワーエールと近しいものがあると感じているので、既存のクラフトビールファンに働きかけつつ、ワインを嗜む人にも楽しんでもらえるように、副原料にブドウを使用する等の施策を打てたらいいなと思います。(前回の記事「Pedi」でも書きましたが、ワインを嗜む人にもアプローチできるように、店舗構想もワインバーやビストロ寄りになっています。)

まさにそれは、ワイナリーとの境界線上に位置するブルワリーといえます。

*参考元: https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20211005_01.html

ブルワリーはいつ開業する?

店舗が先か、ブルワリーが先か、ブルーパブという選択肢はないのか。この問題は常に考えています。現状では初期投資や自分の得意分野などを鑑みて、飲食店店舗を開業したのち、7年~10年スパンでブルワリー立ち上げに着手しようと考えています。飲食の良さは、たくさんのブルワリーから商品を集めることができて選択肢が多いこと、それから顧客の反応を直に感じ取れるためトレンドを掴みやすいことがあげられます。

ブルワリーやブルーパブではなかなかそうはいきません。タンクの数は限られていいて、300L生産したらもちろん300L売らないといけませんから、各地から集めてきた10L~20Lケグを頻繁に繋ぎ変えるビアバーの(単純な種類の多さという意味での)小回りさには勝てません。

よってビアバーの開業・運営によって消費者の動向を掴みつつ、この期間を自分の作りたいビールを決定する期間として充て、お店についてくださったファンの方々を軸にクラフトビール醸造事業にシフトしていく。これが今のところ綺麗な流れかなと思います。

まとめ

たくさんの構想を書き連ねてきましたが、結局のところ自分の好きなものに対して「私も好き」って言ってもらいたい。これに尽きると思います。

僕の好きなサワーエールを、あの人にも、この人にも好きになってほしい。そういった思いで「Pedi」も、その後のブルワリーも運営していきます。独りよがりにならないよう、皆さんに価値を提供できるように頑張るので、ご感想やご意見お待ちしております。

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