スプリングバレーってクラフトビールなの?という疑問、ビール通なら一度は思ったことがあると思います。
実はこの疑問には裏があって、「クラフトビールの価値」って何?というところまで行き着くと思っています。
上記に挙げた2点が今回の話の軸になります。
あくまでも筆者個人の見解であり、自分が所属する会社やビアバー店員ないしクラフトビール関係者全員の総意ではありません。
スプリングバレーはクラフトビールなのか?
「悔しい話をします」という広告
スプリングバレー (Spring Valley Brewery) は、2014年に本格始動したキリンビールのビールブランドです。
最近、電車で見かけた中吊り広告で、興味深い文章が書かれていました。
悔しい話をします。日本のビールのほとんどが、実は1種類らしい。
ホントはビールって、150種類以上あるのに。150分の1ですよ!僕らずーっと同じもの飲んでた。食べ物や場所が変わってもおんなじ。ビールだけですよ、そんなの。クラフトビール、始めないともったいないと思うな…絶対。
クラフトビール、スプリングバレーから始めます。
Spring Valley Breweryの広告 2024年3月時点
これを見て筆者は「キリンビール、よくぞやってくれたな」と思いました。
そう思った理由は以下の2点を気づかせてくれたからです。
詳しく見ていきましょう。
消費者の選択肢を広げてくれる大手
まず、大手ビール会社がクラフトビールというワードを莫大な広告費をかけて拡散してくれているということに感心しました。
単一のスタイルがまだまだ蔓延るビールシーンにおいて、「クラフトビール」という他の選択肢を開拓してくれるのは、単純にいいことです。
しかしクラフトビール関係者の中には、大手の参入を快く思わない人がいるのも事実。
自分の作ったビールや自分が作ったお店、自分が扱っている商材に自信があれば、大手の参入など気にも留めないと思うのですがね、というのが個人的な意見です。
そうやって外界からの参入を拒んでいると、業界ごとシュリンクして自分が明日食べる飯なくなりますよ、と言いたいところですが、筆者はクラフトビール業界では駆け出しのペーペーなので表立ってはそんなこと言えません。
人気のないクラフトビール事業者が振り落とされる未来
スプリングバレーをクラフトビールの入り口にする消費者は少なくないでしょう。
その消費者の中でも、クラフトビールに関心を持つ人は、さらにシーンの内側へと入り込んできます。
そこで起きるのが「自然淘汰」です。
1990年代の地ビール時代と違い、設備や技術の発達によって生産クオリティが上がっていますから、品質が悪くて倒産するという生産者は、前に比べて少ないと思います。
しかし、大手もクラフトビール市場に堂々と参入する時代になった今、消費者の舌も徐々に肥えはじめています。そして「品質は良くて当たり前」になり、その上で「このクラフトビールが飲みたい!これじゃなきゃだめ!」と思わせるような武器が必要になってきています。
地ビール時代末期(2003年-2012年)には、約250業者うち約80業者が10年足らずで廃業や倒産 ※1 になりました。
2024年現在、クラフトブルワリーは600社を突破。
今後生産者にとっては競争激化の厳しい時代が訪れるとともに、一方で消費者から見れば「品質がよく」「適正価格で」「選ばれしクラフトブルワリー」からクラフトビールを購入できる“良い時代”になるでしょう。
(飲食店や販売店の競争ももちろん加熱するでしょう。)
※1 データ引用元 http://www.senshu-u.ac.jp/~off1009/PDF/180420-geppo658/smr658-mizukawa.pdf
クラフトビールの定義
前段で話が逸れたので、話を「スプリングバレー」に戻します。
そもそもクラフトビールの定義は日本には存在しません。
クラフトビールは元々アメリカのブルワーズ・アソシエーションが決めた概念であり、以下の3つの要素を満たすものです。
- 小規模であること(年間生産量約70万キロリットル以下)
- 独立していること
- 伝統的であること
アメリカの小規模ブルワリーと日本の小規模ブルワリーは桁違いで、簡単に比較できません。
2023年時点で、日本のクラフトブルワリー出荷量一位のエチゴビールは、年間出荷量約2300キロリットル ※2 でした。まさに桁違い。(もちろん生産量が多ければ優れているというわけではありません。)
日本の大手ビール会社の工場1~2個分の生産量が、アメリカにおいてクラフトビールと名乗れる生産量の上限なのです。
また、スプリングバレーは大手キリンビールのブランドですから、「独立している」とは言い難いと思われます。
※2 データ引用元 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198045_1527.html
スプリングバレーはクラフトビール?
では結局、スプリングバレーはクラフトビールなのか?という疑問に対する答えは何なのか。
それは、
クラフトビールかどうかは消費者が決めるもの
筆者はそう考えています。
日本において、生産量の多寡でクラフトビールかどうか判別/定義することは難しいと先ほど述べました。
そうなるとやはり定性的な定義である「職人精神に重きを置いているかどうか」がクラフトビールどうか判別する根拠になると思います。
職人精神とは、品質に妥協せず、高い技術力と想いを結晶化させてモノを作り上げる姿勢だと筆者は考えています。
大手ビール会社に近いような存在でも、職人精神を持ち合わせていればクラフトビールと呼ばれるべきでしょうし、小規模なビール会社でも、ものづくりに対する真摯な姿勢を失ったら、もはやそれはクラフトビールではありません。
スプリングバレーがクラフトビールかどうかは、実際に飲んでみて、生産者の想いを知ってから判断するべきだと思います。
ということで、筆者はスプリングバレーの消費者ではないので「スプリングバレーはクラフトビールなのか?」という問いに対しては答えられません。
クラフトビールの価値は?生き残る方法
クラフトとは、小規模で良い商品を真摯に作ってきた生産者の「専売特許」のようなものでした。
しかしながら、大手がクラフトビールと名乗ってビールを売り出している今、クラフトの価値が揺らぎ始めています。
大手は品質の面でかなり優れていますし、生産コストや物流コストを抑えられるがために、最終小売価格は比較的安価です。
「品質が優れていて、スーパーなどで手に入り、ピルスナーとは違うスタイルで、ラベルにクラフトビールと書かれている」ビールに、いわゆる元来の「クラフトビール」は、どう太刀打ちしていけば良いのでしょうか。
筆者が個人的に考える、元来のクラフトビールが生き残る勝ち筋を3つ考えました。
クラフトビールが生き残る3つの方法(仮説)
これらは生産者にも当てはまりますし、我らが飲食業や卸売業などにも当てはまる勝ち筋だと考えています。
個人にフォーカスする
一つ目は、個人にフォーカスすること。個人を売りにすることですね。
職人精神を消費者に伝える手段として有効なのは、社長個人にフォーカスして宣伝することでしょう。
この手法は大手では困難です。
消費者から親しみを持ってもらうためには、生産者や事業者の顔が見えることが重要です。
大きなビール会社から一消費者としてビールを買うというよりも、「知人がやっているビール会社からビールを買う」という購入体験は、素晴らしいものなると思います。
今どき、ヘッドブルワーや飲食店オーナーはみんなSNSやブログで自分を発信しているので、自分が消費者とコネクトするチャンネルを持っていない事業者の方は、もはや危機感を覚えていいと思います。
個人にファンをつけるメリットは他にもあります。
それは「事業モデルが変わっても個人の人格は変わらない」ということです。
例えば筆者はクラフトビールの飲食店を始めたとして、筆者自身のファンを増やすような施策を続けていくとします。
10年飲食店続けたとして、今度はブルワリーを開業するとしたらどうでしょうか。
脱サラして自分自身にファンがいない人がブルワリーを開業するよりも、元からファンがいる筆者の方が有利だと思います。
飲食店→ブルワリー開業はちょっと相性が良すぎる例ですが、他の業種でも案外同じことが言えると思います。
サラリーマン時代に自分にファンがつくような振る舞いをしていれば、独立して全く違う業種に行ったとしても、何らかの形でお客様を引き連れることができると思います。
コミュニティを作る
二つ目はコミュニティを作ることです。
これも大手ではやりにくいことです。
同じビールブランドが好きという共通項があるファンは、それぞれの結びつきが強くなります。
ビールを売りつつ、ファン同士の人的交流を活発化させると「仲間に会いにいく」というビールを飲む以外の別の目的が生まれ、集客が見込めます。
結果、収益が伸びるきっかけになります。
大手では、ファンの層が非常に分厚く、色々な属性の人が存在しすぎているので、リアルな場でのファン同士の交流が生まれにくいと推測しています。
プレミアム路線を作る
三つ目は、プレミアム路線を作ること。
これも大手ではしにくいことです。
スーパードライが一番の売りのアサヒビールが、750ml瓶1本¥15,000の高級ビールを売り始めるのは困難です。
可能だとしても、350ml缶1本200~300円くらいで買えるイメージが染み付いているブランドですから、高級路線に足を踏み入れるには相当のリブランディングコストがかかります。
その点、クラフトビールはまだまだ高いイメージがあり、これを逆手に利用して高級路線を一部開拓するのは大手に比べれば容易かと思います。
販路開拓は、行動するかしないか、社長の行動力で決まります。
百貨店のお得意様向け、ホテルの会員向けPB、カード会社の上級顧客向け、高級クラブ、高級レストラン、高級ワインバー、結婚式場、開業式典などの運営事業者、パーティ運営などの事業者などに営業して、まずはBtoBで広めていく。
世の中には「欲しいものにはいくらだってお金を払うお客様」がたくさんいます。
いわゆる富裕層に刺さるようなブランド観を少しずつ醸成し、ある程度まで業務用販売を進めていき、十分に認知されたらブルワリーから消費者に直販すれば良いのです。
売価を上げるということは、価値提供ができていれば決して悪いことではありません。従業員にも還元できるし、原価を上げたり設備投資をしたりして、より良い製品を作ることだって可能です。
利益率が低くても「お客様のために」と頑張るのも決して悪いことではありません。
ただ、利益率が低くて嘆くのは絶対に悪いことです。
ブランドの方向性を見直し、適切に売価を上げる方法を探ることが、クラフトビールが生き残る方法の一つだと筆者は信じています。
まとめ
スプリングバレーはクラフトビールなのかという疑問から、クラフトビールの価値にまで話が及びました。
筆者はまだ駆け出しのペーペーなので、展開した持論はあくまでも仮説です。世の中うまくいかないことばかりです。
ただ、この仮説は筆者自身も今現在、そしてこれからも検証していくものでもあります。
そんな筆者は、数年後飲食店開業を目指しているので、行く末を見守っていただけると幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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