クラフトビールの仕事 | パプ→ブルーパブ→ブルワリー→ビアバーというキャリアを積んできて分かった2つのこと

クラフトビールの仕事と聞いて、皆さんはどんな職種を思い浮かべますか。

僕は大学時代のアルバイトを含めると約10年間、クラフトビール業界に身を置いています。パブ(3年)→ブルーパブ(1年)→ブルワリー(1年)→ビアバー(3年目〜)。現在28歳、渋谷のMikkeller Tokyoでカウンターに立ちながら、2028年にワイルドエールとシャルキュトリのペアリングを主軸にした自分のバーを東京に開く準備を進めています。

今振り返ると、この4つの業態を渡り歩いてきたことが、開業に向けた最大の武器になっています。今回はその4つの職種の違いを、実体験を交えながら2つのポイントから解説します。

この記事は以下のような方に向けて書かれています

  • クラフトビール業界での仕事内容が気になる
  • クラフトビール業界に転職したい
  • 現在クラフトビール業界にいて、キャリアに悩んでいる

今回登場する職種はすべて作業者レイヤーを前提としています。

クラフトビール業界で働く方にとっては常識レベルかもしれませんが、少しでもご参考になれば幸いです。

ポイント1:それぞれ扱う商品が違う

これはなんとなく分かると思われますが、まず扱う商材が違います。

  • パブでは、ウイスキーやビール、カクテルなどを扱う
  • ブルーパブ(のパブ部門)では、自社醸造したビールを扱う
  • ブルワリーでは、主として朝から工場作業を行う
  • ビアバーでは、インポーターや国内醸造所から仕入れたビールを扱う

この中でブルワリーだけは、飲食業(サービス業)ではなく製造業です。仕事内容がまったく異なります。

ブルワリーの仕事内容に興味があれば、以下の記事を参考にしてみてください。

ポイント2:磨くスキルの方向性が違う

クラフトビール業界にある仕事なので、どれもクラフトビールの「知識やスキル」は習得できます。その「知識やスキル」について、もう少し解像度を上げてみましょう。

パブ

パブは厳密にはクラフトビール業界に属していないのですが、クラフトビールを扱うパブが多いのは事実です。扱う商材のメインは、ギネスやロンドンプライドなどのトラディショナルビールとウイスキー、サイダーなどです。

パブでは主に、ウイスキーの知識が身につきます。ウイスキーは樽熟成を行うので、樽の種類の知識はもちろん、熟成による風味への影響などの洞察が深まります。これはクラフトビールにも応用できる経験的価値です。またパブではジンやブランデー、ラムなども取り扱うことがあります。ビールが飲み交わされるカジュアルな酒場で社交の仕方を学びながら、お酒の風味の捉え方を学べる良い場所です。

パブでは幅広い蒸留酒・ビールを扱う実践的経験を通して、テイスティング技術を向上させることができるでしょう。

僕の場合: 大学時代に3年間、スコティッシュパブでアルバイトをしていました。毎日シングルモルトを注ぎ、お客さんにバーボンカスクとシェリーカスクの違いを説明し、ウイスキーの樽熟成の世界を叩き込まれた。当時は「将来ビールの仕事をする」なんて思っていませんでしたが、あの3年間で身につけた樽の知識が、今のバレルエイジドビールやワイルドエールの理解にそのまま直結しています。バーボン樽のウイスキーの匂いを知っているから、バレルエイジドのインペリアルスタウトを注ぐときに「この香りの正体はアメリカンオークのチャーです」と自信を持って説明できる。パブで学んだことが、10年越しで武器になっています。

ブルーパブ

ブルーパブとは、自社で醸造したビールを(多くの場合は)併設しているタップルームで提供する業態のことです。タップルームでは基本的に自社醸造ビールを扱います。よって自社醸造ビールの知識を深めることができます。

その反面、休日などに他のブルワリーやビールのことをインプットしないと、幅広いビールのトレンドをおさえられないというデメリットもあります。

また、生産者であるブルワーとの距離も近いので、技術的な知識を吸収しやすい環境にあります。ただし、醸造業務は実際にやってみないとわからないことも多いので、あくまでも一般的な醸造の知識が手に入れられるくらいに考えた方がよいと思います。

ブルーパブでは、飲食でサービスを学びながら、ブルワリー業務に近接する経験を得ることができるでしょう。

僕の場合: ブルーパブで1年間働いた経験は、「造り手の熱量をそのまま伝えるプレッシャーと喜び」を教えてくれました。醸造タンクとタップが数メートルしか離れていない環境。ブルワーが今朝仕込んだばかりのビールを、午後には自分が注いでお客さんに出す。「今日のこのビール、さっき仕上がったばかりなんです」と言えたときの、お客さんの目の輝き方は忘れられません。同時に、ブルワーが「もう少しホップを抑えるだったかも」と悔しがっている横で、そのビールを「美味しい」とお客さんに薦めなければならない瞬間もあった。(ただ、僕がいたところは本当にクオリティが高かったです。)造り手の本音と、届ける側の役割の間で揺れる感覚は、ブルーパブでしか得られない経験でした。

ブルワリー

ブルワリーは、ビールを醸造する工場のことです。基本的に朝方生活です。主な仕事内容は、醸造業務、設備の洗浄、パッケージングなど。

得られるスキルとしては、ビール醸造に関する技術的な経験と肉体労働耐性です。醸造に関する技術は、極めれば高い人的市場価値を生みます。英語が堪能であれば、比較的容易に活躍の場を世界に広げることができるでしょう。

僕の場合: 神奈川のブルワリーで1年間、アシスタントブルワーとして働きました。月給24万円、休日は日曜のみ、朝から22時まで。25kgの麦芽袋を何十袋も担ぎ、腰をやりそうになりながらケグを洗浄し、充填ラインでは次々に流れてくるビール瓶を捌く日々。華やかさは一切ありません。仕事の50%は清掃と洗浄です。

でもこの1年間で得た品質管理の目線は、今カウンターに立つうえで圧倒的なアドバンテージになっています。お客さんに「缶と樽で味が違うのはなぜか」と聞かれたとき、「充填時の溶存酸素量が違う可能性があるからです」と即答できるのは、あの現場を経験したから。腰の痛みは消えましたが、あの泥臭い日々で培った知識は一生ものです。

ブルワリーの仕事内容についてはこちらの記事で詳しく書いています。

ビアバー

ビアバーとは、一般的にクラフトビールをメインに取り扱うバーのことを指します。国内のブルワリーやインポーターからビールを仕入れ、消費者に提供します。仕入れ先が多岐にわたるので、圧倒的にトレンドに敏感になります。日々ビールをメインに商売していくので、ビールの風味を捉える技術も向上します。

ただし、ビールはタップから出てくれば誰でも注げるもの。自身のこれまでのお酒に関する経験に基づいた接客を行うことで、よりよいサービスを提供できます。

もうワンランク上の接客を学びたいのであれば、メニューにビールの説明が詳しく載っていないお店を就職先に選ぶとよいでしょう。メニューに説明が載っているとお客さんがビールを選びやすくなる一方、働く側は「ただビールを注ぐ人」になりがちです。自分でテイスティングして得られた風味やマウスフィールを、自分の言葉で説明する環境に身を置くことで、接客レベルは飛躍的に向上します。

僕の場合: 現在、渋谷のMikkeller Tokyoで5年目を迎えています。ミッケラーの接客哲学は「カウンターに立つ人間がその日のバーの主役」。マニュアル通りの説明ではなく、自分の言葉でビールを語り、自分のスタイルでお客さんをもてなす自由がある。

この環境で毎日数十種類のビールに触れていると、世界のトレンドがリアルタイムで体に入ってくる感覚があります。デンマーク本国から届く最新リリース、スポンタンシリーズのようなランビックスタイル、コラボビール——パブやブルワリーにいた頃には見えなかった景色が、ここには広がっています。

そしてメニューに詳しい説明が載っていない環境だからこそ、パブで鍛えたテイスティング力、ブルーパブで学んだ造り手の視点、ブルワリーで培った品質管理の知識が、すべて接客に直結する。4業態を渡り歩いてきた経験が、ようやくひとつに統合された感覚があります。

おすすめのキャリアパス(番外編)

ブルワリーで活躍したい場合

最初はやはり、消費者と近い目線でトレンドを見つめることが大切だと思います。まずは飲食店で働き、現場でビールの知識をつけてからブルワリーに転職するのがおすすめです。

周りの目も「あの人は現場も知っているし、ビールの技術も持っている」となります。今の日本には「ブルワー様をありがたがる雰囲気」があって、その裏には「ブルワーはいつも偉そう」という根拠のない嫌悪がどこかにある。(僕はブルワーを尊敬しています!)そういった空気を避けるためにも「飲食の現場を知っているブルワー」となることをおすすめします。

ビアバーで活躍したい場合

もし本当に活躍したいのであれば、ブルワリー業務は絶対に経験するべきです。

人は、経験の範疇からしか物事を語れません。ブルワリー業務を経験していなくても、ビールの製造方法や原材料、ホップに関してはいくらでも話せますが、熱を入れて語るのは難しいし、その話の信用度は怪しい。

自身の醸造経験をもとにしたビアバーでの接客は、より価値があり、消費者が求めているものであるはずです。短期間でもよいのでブルワリーで働くことをおすすめします。

自分の最終目的にあった仕事を選ぶべし

もし仕事選びで迷っているならば、自分の最終的な目標から逆算してみましょう。

飲食店を開きたいのであれば、ブルワリーで働いて知識や技能を習得し、その次に飲食店で働きトレンドを捉えるアンテナを鍛える。幅広い経験を用いて飲食店を開業すれば、そうでない人と比べて成功する確度を上げることができます。

反対に、人と喋ることはあまり好きではない、クラフトマンシップに則ってロマンを追い求めたいのであれば、ずっとブルワリーで仕事をすればいいと思います。

キャリア選択は、あくまでも通過点です。自分の最終目標を見据えて、手段としての就職・転職をしましょう。

そして、ここで僕自身の答え合わせをさせてください。

僕がなぜパブ→ブルーパブ→ブルワリー→ビアバーという4業態を渡り歩いてきたのか。答えは、すべては2028年にワイルドエールの店を開くためです。

パブでは、お酒の基礎体力と樽熟成の知識を手に入れた。ブルーパブでは、造り手の息遣いをそのまま客に届ける感覚を学んだ。ブルワリーでは、製造の過酷さと品質管理の技術を体に刻み込んだ。そしてビアバーでは、世界のトレンドを自分の目で見て、自分の言葉で伝える力を磨いている。

この4つの経験がすべて揃わないと、僕が作りたい店は作れないと思いました。ワイルドエールという予測不能なビールを、最高の状態で、最高の言葉で、最高のフードと一緒にお客さんに届ける。そのためには、4つの現場すべてを知っている必要があった。

2028年に向けた道のりは、開業構想シリーズで発信しています。

ワイルドエールの世界についてはこちらの記事をどうぞ。

皆さんのキャリア形成がうまくいくことを、陰ながら応援しています!

この記事を書いた人
さとし

ブログ歴4年ほど、渋谷のクラフトビールバーで働く28歳。元アシスタントブルワー。2028年頃にワイルドエールをテーマにしたバーを開業する予定です。好きなビアスタイルはランビック。

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ビアバーのカウンターから、最高の一杯を。

元ビール工場スタッフで、現在は渋谷のビアバー店員として毎日ビールを注いでいます。
知識だけじゃない、現場の空気感や「本当の美味しさ」を伝えたくてこのブログを始めました。
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