「ビールを作る」ブルワーとは何か?その仕事内容とブルワー転職に必要なこと

1年間アシスタントブルワーとしてブルワリーで働いた筆者(現在はビアバー店員)が、ブルワリー転職について解説します。ブルワーとは何か、ブルワーになるにはどうしたら良いか、ブルワーに求められる資質、良いブルワリーの見分け方について忖度なく書いていきます。

大手5社で生産技術職を志望している方は、生物系(特に微生物を扱う分野)の大学・大学院に入学・編入して就職活動することをおすすめします。なぜなら大手企業は未経験・未履修で生産技術系の採用を行なっていないからです。

この記事は、ビール醸造未経験で国内のクラフトブルワリーに就職、転職したい方に向けて書かれています。

僕は” ブルワー “という職業が大好きで、かつ今よりももっと敬意の対象となるべき職業だと思います。もしこの記事を読んでいるあなたがブルワーになって、今後のクラフトビールシーンを盛り上げてくれるような存在になれば幸いです。一緒に頑張りましょう!

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ブルワー・ビール職人という職業

ブルワーの仕事内容

先に言っておくと、ブルワーの仕事はかなり地味です。僕が入社したブルワリーは業界でも忙しい(≒ブラックな)ことで有名でしたが、ブルワリー勤務時代にお会いしたブルワーさんや、現職でお会いしたブルワーさんの話を”聞いても、決して華やかとは思えません。

いろんな仕事がある

大きく分けて5つの作業があります。目安として従業員数が5名以下もしくは1回の仕込み量が10BBL(約1200L)以下の小さいブルワリーでは、少数人数で全ての業務をこなすことが多いと思います。

(1)清掃と洗浄

ビールを発酵・貯蔵するためのタンクを洗浄したり、飲食店から返却された樽(ケグ)を洗浄したり、何かと洗浄作業が多いです。醸造が終わった後の糖化槽(マッシュタン)や煮沸釜(ケトル)、ビールを移動させるときに使うホースなど、「作業したら洗浄」を繰り返すのがブルワーの仕事といえます。また水を使った作業が多いため、基本的には長靴とゴム手袋を着用します。湿度の高い醸造所内はカビが発生しやすく、デッキブラシや高圧洗浄機で床面や壁際を清掃しなければなりません。

(2)出荷作業

製品化された樽や瓶を、問屋や飲食店、個人に向けて出荷する作業です。個人的な印象だと、樽の出荷量よりも瓶や缶の出荷量が多いほど、そして法人より個人向けの出荷量が多いほど、出荷作業にかかる時間は長いと思います。特に個人向けECサイトを運営していたり、お歳暮やお中元のようなギフトセットを販売していて、かつ自社で出荷作業を行なっている場合は出荷に時間と人手を割きます。冷蔵庫から該当の商品をピックアップしてダンボールに入れ、組み合わせに問題がないか検品し、送り状を貼って出荷するという、いわば物流作業員のような仕事をしなければならないからです。

(3)充填

発酵と熟成が終わったビールを出荷するために、樽詰め(ケギング)や瓶詰め(ボトリング)、缶詰め(カンニング)をします。ブルワリーの設備にもよりますが、中規模以下のブルワリーでは、半自動マシンか手作業で行うことが多いようです。また瓶や缶の場合は、ラベルを貼る必要があります。(僕がいたブルワリーはラベラーと充填機は半自動で、一人で全て行なっていました。)瓶や缶への充填は、酸素混入を防ぐためにマシンのガス圧や液体のガスボリューム、液温などを調整する必要があり、それなりに注意深さが要求されます。

加えてマシンのメンテナンスも欠かせません。毎日マシンにオイル(グリース)をさしたり、作業が終わったら逐一洗浄したりします。また、マシンに異変が起こった時は修理業者が来るまで、ギヤボックスやベルトなど分解して点検、応急処置的な修理をすることもあります。

(4)製品管理

ビール醸造は、数週間かけたマラソンです。仕込みが終わって発酵タンク(ファーメンター)にビールを移送した後は、毎日液体の糖度(グラビティ)を測ったり、発行中のビールにホップを投入する「ドライホッピング」をしたり、タンクの底に溜まったホップや酵母(オリ)を抜いたりといった作業が必要です。フルーツやハーブを漬け込むビールを作るブルワリーであれば、それらをカットしたり煮沸消毒したりします。充填前にビールを濾過するブルワリーであれば、フィルターの準備等もします。

(5)仕込み

ブルワーとして一番楽しいであろう作業です。麦芽の粉砕(ミリング)、糖化(マッシング)、もろみの濾過(ロイタリング)、煮沸(ボイル)、冷却(クーリング)、酵母の投入(ピッチング)といった一連の作業を「仕込み(醸造)」といい、ケトルサワーなどの特殊な製法でない限りは一日で全ての工程をやり切ります。僕がいたブルワリーは一回の仕込み量20BBL(約2400L)を2発(ダブルバッチ)行なっていたので、ミリングは前日の夜に済ませ、翌日開始は朝8:00から終了は22:00を回ることもありました。ただシングルバッチであれば、夕方には終わると思います。

顧客対応

小さいブルワリーであっても、法人や個人向けの対応は事務の方が行なっていたり、社長自ら対応している場合があります。新作ビールの案内送付や請求書の発行、送り状の発行、クレーム対応などがそれに当たります。一介の作業員であるブルワーは関係ないかもしれませんが、独立してブルワリーを開業するならば、これらの業務はもちろん必須になります。

イベント出店等

ビアフェスはだいたい週末に行われ、ファンと交流を深める良い機会です。代休をもらえるかはその会社次第ですが、日々醸造所で缶詰状態で働くブルワーにとっては素晴らしい気分転換になるでしょう。

それぞれの仕事の時間配分イメージ

個人的な感覚ですが、「(1)清掃と洗浄」が50%、「(2)出荷作業」が15%、「(3)充填」が15%、「(4)製品管理」が10%、「(5)仕込み」が10%くらいの時間配分で1ヶ月が過ぎていくイメージです。もちろん新人時代は(1)の時間が多く、ベテランになるほど(5)やここに記載していないレシピ作成やラベルデザインなどの時間が多くなります。ただ、ブルワーが最も時間を費やしている作業は「(1)清掃と洗浄」だと思います。

ある日のブルワーのタイムスケジュール(ほんの一例かつ偏見を含む)

通常の日

8:30 出社

9:00 グラビティチェック

9:30 充填

12:00 昼食

13:00 製品管理

15:00 出荷作業や配達

18:00 退社

仕込みの日

8:00 出社

8:30 仕込み開始、ミリングから

9:00 マッシング

11:00 ロイタリング

12:30 ボイル、昼食

14:00 クーリング

15:00 ピッチング

15:30 洗浄作業や出荷作業

18:30 退社

※ダブルバッチであれば、1バッチ目のボイルが始まる段階で2バッチ目のミリング、マッシング開始といったように時間差で仕込んでいきますが、単純に2回仕込むので業務時間は長くなりがちです

ブルワーの年収

基本は薄給

ブルワリーは材料原価や酒税にかかる支出が多かったり、高額な設備投資の返済があったりと利益が出しにくいため、基本的には薄給です。正社員であれば月給19万〜、昇給は期待できません。雇われブルワーで年収450万を超える人は稀だと思います。

ブルワーとしてのキャリアアップ

新人として入社し、設備の洗浄や充填作業、出荷作業など一通りの作業を覚えたら、いよいよ仕込みに携わることになります。仕込みに関わるまでは大体半年くらいだと思います。そして一人で仕込めるようになるまではおおむね1年程度かかるでしょう。その後、社長や上司の許可が下りれば、自分でレシピを作成することになります。

みんな独立を目指している

雇われブルワーとして働いていても上のポストがなかなか空かず昇格・昇給できないというのと、自分で作ったブランドでビールを売りたいという思いから、大半のブルワーは独立を目指しています。(もちろん事実上雇われブルワーであっても、素晴らしい作品や商品を生み出しているブルワーはたくさんいらっしゃいます。)

” ブルワー “は素晴らしい仕事

ネガティブな面だけ取り上げて恐縮ですが、これでも僕はブルワーは素晴らしい職業だと思っています。アメリカやイギリス、ドイツの広大な土地で育った大麦とホップ、神秘的な生物である酵母、それにブルワーのビールへの熱いスピリッツが合わさってビールが出来上がります。ワインやウイスキーとは何か別の熱狂さがビールにはあって、それをこの世界に産み落とす職業が「ブルワー」というものです。これほどロマンのある職業はありません。

” ブルワー “・ビール職人になる方法と必要な資質

ブルワーになるルート

(1)求人に応募する

一般的な方法です。ブルワリーは誰かが退職しなければ新規求人を出さないところが多いため、間口は狭いです。求人が出されていたら迷わず応募しましょう。ただ大手の求人サイトには掲載しないクラフトブルワリーもあるので、自社のウェブサイトの採用ページやInstagramをくまなくチェックしましょう。最近ではビール業界に特化した求人サイトもあります。

僕は毎日Indeedで「ブルワー」で検索し、日付順にソートして新規求人がないかチェックしていました。

(2)ブルワーや業界の人に紹介してもらう

実は一番確実な方法です。知り合いにブルワーさんがいたら相談してみましょう。その方のブルワリーは募集していなくても、ブルワーはブルワー同士で繋がっている場合が多いので紹介してもらえることがあります。知り合いにブルワーがいなければ、入社したいブルワリーのビールを多く仕入れているクラフトビールバーの店主と仲良くなりましょう。ブルワーと近しいことが多いので紹介してもらえるかもしれません。

(3)直接ブルワリーとコンタクトを取る

僕はこの方法でブルワーになりました。全国にあるブルワリーを調べ、自分の譲れない条件でフィルターをかけた後、片っ端から履歴書をメールで送ったりInstagramでDMを送っていました。返信すらない会社が多かったのですが、ある会社は採用こそ行なっていないものの、応募してきたことに対する感謝の言葉を返してくれたところもあります。また求人広告媒体に「まだ出していないが、これから募集をかけようと思っていた」というタイミングもあるので、めげずにコンタクトを取りましょう!

履歴書作成や面接でのポイントは、以下のブルワーに求められる資質に応えるように自分をアピールすることです。

ブルワーに求められる資質

必須な資質

前職の社長に採用について話を聞いたときに出てきた言葉を自分なりに解釈して、おそらく採用する側はこういう人を採りたいのだろうという仮説をもとにまとめてみました。

自分のビールを作りたいという熱意

ブルワーの仕事自体は単調で地味、かつ肉体労働です。ある程度の胆力が必要で、それを支える高いモチベーションは必須といえます。あと個人的に、ブルワーとして働く方々は自分のビールを作りたいという熱意に溢れていてほしいです。

ブルワリーにはそれぞれカラーがあります。これは仮説ですが、ホームページやInstagramに載っている定番ビールのビアスタイルや、国内のビアコンペで入賞しているビアスタイルが、自分の将来的に作りたいビールと合致していれば、採用する側も採用しやすいのではと思います。

ある程度のフィジカルの強さ

ビールが満タンに入った20L樽や大麦麦芽の袋は1袋約25kgになります。フォークリフトや台車を使うこともありますが、要所要所で自力で持ち上げたり、移動させたりする場面があります。ただ体の使い方を覚えれば案外大丈夫なので、あまり心配する必要はないでしょう。

単純作業に対する耐性

充填作業やラベルを貼る作業、出荷作業は単純さを極めます。高いモチベーションと、単純作業に対する耐性は必須といえます。

あった方がよい資質

仕事をスムーズに行うためにあった方がよい資質をまとめます。

注意力

清掃や洗浄に使う洗剤は、食品工業用の水酸化ナトリウムや硝酸など人体に有害なものです。大手企業はそれらの扱いについて規則を定め、事故がないように整備されていますが、小規模醸造所ではそこまで行き届いていない場合があります。熱湯火傷や薬品事故、脚立からの転倒で命を落とさないよう、注意力はあった方がいいです。

人並みの嗅覚と味覚

完成されたビールを試飲して品質チェックをする際に、嗅覚と味覚は人並みにあったほうが良いです。オフフレーバーを見分けるには、才能より訓練の方が重要というのが僕の持論ですが、トップレベルのブルワーの嗅覚と味覚は鋭敏です。

綺麗好きであること

醸造は微生物の力で成り立っており、それは汚染と隣り合わせでもあります。醸造所内を清潔に保つのはもちろんですが、作業効率を上げるために整理整頓を怠らないこと良い仕事を作る第一歩となります。

英語

意外と思われるかもしれませんが、英語は重要です。現在クラフトビールの本場は、事実上アメリカでありブルワーの共通言語は英語です。レシピや醸造用語も英語でやりとりされます。英語にアレルギーがある場合は、今のうちに直しましょう。

また、国内のクラフトブルワリーであってもヘッドブルワーは欧米出身だったり、アメリカ居住経験のある日本人だったりします。コミュニケーション上、英語の方が込み入った話ができるというブルワーも多いかもしれません。

日本国内でホームブリューイングは違法、しかし

日本国内で、自宅でビールを醸造する行為は違法です。

酒類とは、酒税法上、アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることのできるもの又は溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含みます。)をいい、当該製品により製造されたものがアルコール分1度以上の飲料となる場合は、酒類製造免許が必要になります。

https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/06/34.htm

ただし、国内の名だたるブルワリーに在籍するブルワーの多くはアメリカ在住時や、その他の場所でホームブリューイングを行なっていたことは事実です。(”その他の場所“がどこなのかはここには書けませんので、察してください。)

その他の場所でホームブリューイングを行なった経験が、ブルワリーの中途採用では有利に働くと個人的には思います。また、ホームブリューイングを行っていると、情報収集するうちに別のホームブリュワーと出会うことがあります。縁を辿っていくと、いずれはプロのブルワリー業界に行きつき、採用が有利になるかもしれません。

個人的には、現行の酒税法にやや反対な意見を持っていますが、今後の将来を考えて非合法なことはしない方がいいと思います。しかしそれでもビールへの愛が溢れて仕方ないのであれば、誰もそれを止めることはできません。

私はホームブリューイングの経験はありませんが、ホームブリューイングに必要な機材や、原料を小ロットで売ってくれる業者を知っているので、何か困ったことがあればご連絡ください。

いかがでしたでしょうか。ここまで長文のブログを読んでいただいてありがとうございました。わからないことや聞きたいことがあれば、お気軽にコメントやInstagramからDMしてくださいね!

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