「ビールを作る」 ブルワー とは何か?1年間の醸造所勤務を経て、今カウンターに立つ僕が語る仕事のリアル

「ブルワーって、毎日ビール作ってるんでしょ?最高じゃん」

飲食業界以外の友人にそう言われるたびに、僕は苦笑いしてしまいます。大学卒業後、神奈川県の老舗ブルワリーでアシスタントブルワーとして1年間働いた僕が断言しますが、ブルワーの仕事のうち「ビールを作っている」と実感できる時間は、全体の1割もありません。

残りの9割は何をしているのか。清掃、洗浄、充填、出荷、製品管理——地味で泥臭い肉体労働の繰り返しです。

それでも僕は、ブルワーは素晴らしい職業だと思っています。アメリカやイギリス、ドイツの広大な土地で育った大麦とホップ、神秘的な生物である酵母、それにブルワーのビールへの熱いスピリッツが合わさってビールが出来上がる。ワインやウイスキーとは何か別の熱狂さがビールにはあって、それをこの世に産み落とす職業が「ブルワー」です。これほどロマンのある仕事はありません。

今は渋谷のビアバーでカウンターに立ちながら、2028年にワイルドエール専門のバーを開く準備を進めています。「作る側」と「届ける側」の両方を経験した人間として、ブルワーという職業のリアルを、包み隠さず書いていきます。

この記事は以下のような方に向けて書かれています

  • ブルワー(ビール醸造家)への転職を考えている方
  • ブルワーの仕事内容をリアルに知りたい方
  • クラフトビール業界でのキャリアに興味がある方

※大手5社で生産技術職を志望している方は、生物系(特に微生物を扱う分野)の大学・大学院に入学・編入して就職活動することをおすすめします。大手企業は未経験・未履修では生産技術系の採用を行っていないためです。この記事は、ビール醸造未経験で国内のクラフトブルワリーに就職・転職したい方に向けて書いています。

僕は” ブルワー “という職業が大好きで、かつ今よりももっと敬意の対象となるべき職業だと思います。もしこの記事を読んでいるあなたがブルワーになって、今後のクラフトビールシーンを盛り上げてくれるような存在になれば幸いです。一緒に頑張りましょう!

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「ビールを作る」ブルワー(醸造家)の本当の仕事内容

華やかなイメージの裏側:仕事の8割は「清掃・洗浄」

先に言っておくと、ブルワーの仕事はかなり地味です。

大きく分けて5つの作業があります。

(1)清掃と洗浄

発酵タンクの洗浄、飲食店から返却された樽(ケグ)の洗浄、糖化槽(マッシュタン)や煮沸釜(ケトル)の洗浄、ホースの洗浄——「作業したら洗浄」をひたすら繰り返す。これがブルワーの日常です。

水を使う作業が多いため、基本的には長靴とゴム手袋を着用します。醸造所内は湿度が高くカビが発生しやすいので、デッキブラシや高圧洗浄機で床面や壁際の清掃も欠かせません。

個人的な感覚ですが、この清掃・洗浄だけで仕事全体の50%くらいを占めます。「ビール作りの半分は掃除」と言っても大げさではありません。

(2)出荷作業

製品化された樽や瓶を、問屋・飲食店・個人向けに出荷する作業です。特に個人向けECサイトを運営していたり、お歳暮・お中元のギフトセットを販売しているブルワリーでは、冷蔵庫からのピックアップ、検品、ダンボール詰め、送り状貼りと、いわば物流作業員のような仕事を延々とこなすことになります。

(3)充填

発酵・熟成が終わったビールを樽詰め(ケギング)、瓶詰め(ボトリング)、缶詰め(カンニング)する工程です。中規模以下のブルワリーでは半自動マシンか手作業が多い。僕がいたブルワリーでは、ラベラーと充填機は半自動で、一人で全工程を回していました。

(4)製品管理

仕込み後、発酵タンクに移送されたビールの糖度(グラビティ)を毎日測定したり、ドライホッピング(発酵中のビールにホップを投入する作業)をしたり、タンク底に溜まったホップや酵母(オリ)を抜いたり。フルーツやハーブを漬け込むビールなら、それらのカットや煮沸消毒も担当します。

(5)仕込み

ブルワーとして一番楽しい作業です。麦芽の粉砕(ミリング)、糖化(マッシング)、もろみの濾過(ロイタリング)、煮沸(ボイル)、冷却(クーリング)、酵母の投入(ピッチング)——この一連の工程を1日でやり切ります。

僕がいたブルワリーは1回の仕込み量20BBL(約2,400L)をダブルバッチで行っていたので、ミリングは前日夜に済ませ、翌朝8時に開始して終わるのは22時を回ることもありました。シングルバッチなら夕方には終わりますが、それでも体力的にかなりキツい1日です。

時間配分のリアル

1ヶ月を振り返ったときの感覚として、清掃・洗浄が50%、出荷作業が15%、充填が15%、製品管理が10%、仕込みが10%くらい。新人時代は清掃の比率がさらに高く、ベテランになるほどレシピ作成やラベルデザインなどクリエイティブな時間が増えていきます。ただし、どんなベテランでも最も時間を費やしているのは清掃・洗浄です。

ある日のブルワーのタイムスケジュール(ほんの一例かつ偏見を含む)

通常の日

8:30 出社

9:00 グラビティチェック

9:30 充填

12:00 昼食

13:00 製品管理

15:00 出荷作業や配達

18:00 退社

仕込みの日

8:00 出社

8:30 仕込み開始、ミリングから

9:00 マッシング

11:00 ロイタリング

12:30 ボイル、昼食

14:00 クーリング

15:00 ピッチング

15:30 洗浄作業や出荷作業

18:30 退社

※ダブルバッチであれば、1バッチ目のボイルが始まる段階で2バッチ目のミリング、マッシング開始といったように時間差で仕込んでいきますが、単純に2回仕込むので業務時間は長くなりがちです。

元担当者が語る、品質管理とパッケージングのシビアな世界

品質管理とパッケージング(充填)は、僕がブルワリーで最も多くの時間を費やした領域です。ここには「数値で味を守る」というプレッシャーがあります。

瓶や缶への充填は、酸素混入を防ぐためにマシンのガス圧、液体のガスボリューム、液温を細かく調整する必要があります。少しでもガス圧がずれると、せっかく何週間もかけて作ったビールの味が変わってしまう。開栓した瞬間に泡が噴き出す「ガッシング」が起きれば、それはお客さんの手元に届くビールとして失格です。

加えてマシンのメンテナンスも日課でした。毎日オイル(グリース)を差し、作業後は逐一洗浄。マシンに異変が起きたときは修理業者が来るまで、ギヤボックスやベルトを分解して点検し、応急処置的な修理をすることもありました。

清掃・洗浄に使う洗剤は、食品工業用の水酸化ナトリウムや硝酸など人体に有害なものです。大手企業は取り扱い規則が整備されていますが、小規模醸造所ではそこまで行き届いていない場合もある。熱湯火傷、薬品事故、脚立からの転倒——命に関わるリスクと隣り合わせだという意識は常に持っていました。

醸造は微生物の力で成り立っており、それは汚染と隣り合わせでもあります。品質管理とは、目に見えない微生物と数値を相手に、毎日神経を研ぎ澄ませる仕事です。

未経験からブルワーになるには?転職のリアルと心構え

求められる資質

前職の社長に採用について話を聞いたことがあります。その言葉を自分なりに解釈して、採用する側が求める人物像をまとめてみました。

必須な資質

自分のビールを作りたいという熱意。 

ブルワーの仕事自体は単調で地味、かつ肉体労働です。それを支える高いモチベーションは必須です。ブルワリーにはそれぞれカラーがあり、自分が将来的に作りたいビールのスタイルと、そのブルワリーが得意なスタイルが合致していると、採用側も採用しやすいのではと思います。

ある程度のフィジカルの強さ。

 ビールが満タンに入った20L樽は約25kg、大麦麦芽の袋も1袋約25kgです。フォークリフトや台車を使う場面もありますが、要所で自力で持ち上げる場面は避けられません。ただ体の使い方を覚えれば案外大丈夫なので、あまり心配する必要はないでしょう。

単純作業に対する耐性。

 充填作業、ラベル貼り、出荷作業は単純さを極めます。高いモチベーションと、地道な作業への耐性は必須です。

あった方がよい資質

注意力。 

前述の通り、有害な洗剤を日常的に扱います。事故を起こさないための注意力は命を守る資質です。

人並みの嗅覚と味覚。

完成したビールの品質チェックには嗅覚と味覚が必要です。オフフレーバーを見分けるには才能よりも訓練が重要というのが僕の持論ですが、トップレベルのブルワーの感覚は鋭敏です。

綺麗好きであること。

醸造は微生物の力で成り立っており、清潔さが品質の土台です。整理整頓を怠らないことが良い仕事の第一歩になります。

英語。

意外に思われるかもしれませんが、クラフトビールの本場は事実上アメリカであり、ブルワーの共通言語は英語です。レシピも醸造用語も英語でやりとりされます。国内のクラフトブルワリーであっても、ヘッドブルワーが欧米出身だったり、英語の方が込み入った話ができるというブルワーも少なくありません。

就職するブルワリーを選ぶ3つのポイント

ブルワーになるルートは大きく3つあります。求人サイトへの応募、ブルワーや業界の人からの紹介、そして直接ブルワリーにコンタクトを取る方法です。僕自身は3つ目の方法で採用されました。全国のブルワリーを調べ、自分の譲れない条件でフィルターをかけた後、片っ端から履歴書をメールで送ったりInstagramでDMを送っていました。返信すらない会社が大半でしたが、めげずにコンタクトを取り続けたことで道が開けました。

では、どんなブルワリーを選ぶべきか。僕の経験と、業界で見てきたことから、3つのポイントを挙げます。

(1)ある程度の知名度・流通量があるブルワリー

知名度があるブルワリーは、取引先や業界内での信頼があります。そこで働いた経験は、将来独立する際の「名刺」になる。また流通量が多いほど、充填・出荷・品質管理の実務経験を高い密度で積めます。小さすぎるブルワリーだと仕込み頻度が少なく、経験値が貯まるスピードが遅いこともある。

(2)中規模以上の設備を持つブルワリー

設備の規模は、学べる技術の幅に直結します。半自動の充填ラインがあるか、冷蔵設備は十分か、発酵タンクの本数はどうか。従業員数5名以下や仕込み量10BBL以下の小さいブルワリーでは全業務を少数で回すため幅広い経験が積める反面、各工程の深さは限られます。自分が何を重視するかで判断してください。

(3)科学的な知見を大切にしているブルワリー

これは個人的に最も重要だと思うポイントです。糖度管理、pH測定、溶存酸素のコントロール——品質管理を数値ベースで行っているブルワリーは、醸造の「なぜ」を学べる環境があります。感覚だけに頼る醸造所よりも、科学的なアプローチを取り入れているブルワリーの方が、将来独立したときの土台になる。ホームページやSNSで醸造プロセスに言及しているか、ビアコンペへの出品歴があるかなどが判断材料になります。


なぜ僕はブルワリーを出て、ビアバーのカウンターに立つのか?

「作り手」から「伝え手」へ。最高の状態でお客さんに届ける使命

ブルワリーで1年間働いた後、僕は渋谷のビアバーに転職しました。

「なぜ醸造を辞めたの?」と聞かれることがあります。正直に言うと、辞めたのではなく「場所を変えた」という感覚の方が近い。

ブルワリーにいた頃、自分が充填したビールがどんな状態でお客さんの手元に届いているのか、どんな温度で注がれているのか、どんな顔で飲まれているのか——それが全く見えなかった。品質管理で数値を追いかける毎日の中で、「この先にある飲む人の表情」を知りたくなったのです。

カウンターに立ってみて気づいたのは、ビールは注ぎ方、温度、グラスの選び方で味が変わるということ。作り手がどれだけ完璧な品質で充填しても、最後の一歩で台無しになることもあれば、逆に提供者の工夫で味が引き立つこともある。

2028年に開こうとしているワイルドエール専門のバーでは、「作る側の品質基準」と「届ける側の最適な提供」の両方を理解した上で、一杯一杯を出したい。それが僕がカウンターに立ち続ける理由です。

現場を知る人間が注ぐ一杯の価値

ブルワリーの現場を知っていると、カウンターでの仕事に深みが出ます。

お客さんに「このビール、どうやって作ってるんですか?」と聞かれたとき、ラベルの情報を読み上げるのではなく、「このスタイルは仕込み日に〇〇の工程があって、だからこの香りが出るんです」と実体験から語れる。品質管理で溶存酸素を測っていた経験があるから、「缶と樽でなぜ味が違うのか」を説明できる。

もちろん、醸造経験がなくても素晴らしいバーテンダーはたくさんいます。ただ、作り手の苦労を知っている人間が注ぐ一杯には、伝えられる物語の厚みが違うと信じています。

雇われブルワーとして働いていても上のポストがなかなか空かず昇格・昇給が難しいのがこの業界の現実です。大半のブルワーが独立を目指しているのは、自分のブランドでビールを売りたいという思いと、キャリアの天井が見えやすいという構造的な理由の両方があります。僕の場合は「作る」から「届ける」方向に舵を切りましたが、どちらの道を選んでも、ビールへの情熱が原動力であることに変わりはありません。


まとめ:これからブルワーを目指すあなたへ

ブルワーの仕事は地味で、過酷で、薄給です。正社員でも月給19万円からスタートが珍しくなく、昇給も期待しにくい。それでもこの仕事を選ぶ人がいるのは、「自分の手でビールを作る」というロマンが、すべてを帳消しにするほどの魅力を持っているからです。

僕が言えるのは、もしあなたがブルワーになりたいと本気で思っているなら、今すぐ動いてほしいということ。求人は突然出て、突然埋まります。僕は毎日Indeedで「ブルワー」と検索し、日付順にソートして新規求人がないかチェックしていました。直接ブルワリーにコンタクトを取るなら、「まだ募集をかけていないが、これから出そうと思っていた」というタイミングに当たることもあります。めげずに動き続けてください。

もしわからないことや聞きたいことがあれば、お気軽にコメントやInstagramからDMしてくださいね。

僕自身は2028年に、ワイルドエールとシャルキュトリのペアリングを主軸にした小さなバーを東京に開きます。醸造所で「ビールの裏側」を知り、バーで「お客さんの表情」を知った先に、自分だけの一杯を届ける場所を作りたい。その道のりはプロフィール開業構想シリーズの記事で発信しています。ぜひ覗いてみてください。

一緒にクラフトビールシーンを盛り上げていきましょう。

この記事を書いた人
さとし

ブログ歴4年ほど、渋谷のクラフトビールバーで働く28歳。元アシスタントブルワー。2028年頃にワイルドエールをテーマにしたバーを開業する予定です。好きなビアスタイルはランビック。

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ビアバーのカウンターから、最高の一杯を。

元ビール工場スタッフで、現在は渋谷のビアバー店員として毎日ビールを注いでいます。
知識だけじゃない、現場の空気感や「本当の美味しさ」を伝えたくてこのブログを始めました。
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