僕のお店で大手ビール会社のビールを置く理由

「生まれて初めてクラフトビール飲みます」という人が、クラフトブルワリーで作られたピルスナーを飲んだらどういう反応をするのでしょうか。

個人的予想は、

「なんか高いし、これならサッポロ黒ラベルでよくね?」

という感想を吐かれるだろうと思っています。特に日本ではクラフトビールの価格がまだまだ高く、金持ちの道楽とは言わずとも、決して安いものではないと思うので。

しかしながらクラフトビールをすでに楽しんでいる人にあっては、大手ビールの何倍もの値段で売られているピルスナーをよく飲んでいて、むしろ喜んでお金を払っている人もいるくらいです。

この両者を隔てる距離は何でしょう?

この質問に答えることは「クラフトビールとは何か?」という大きな命題に答えることと同義であると確信しています。

先に答えを言ってしまうと、その答えは「ブルワーの職人精神がこもった液体であること」に尽きます。そしてその職人精神の中には、ブルワー自身に内在する精神性、つまり地元や地元の素材を愛しているだとか、若い頃に出会ったヨーロッパのビールを日本に伝えたいだとか、画一的なビール市場を変えたいだとか、そういったものが含まれています。これを知っているか、知っていないかで距離が生まれるのだと思います。

ただし、クラフトビールを今日から飲む人にとってはそんなことは知るよしもないでしょう。ピルスナーという液体だけ切り取ってみれば、大手が安く、クラフトビールは高い。単にそれだけ。

いやいやクラフトビールのピルスナーはブルワーのクラフトマンシップが込められていて….と言われても、その言葉に響くのは「クラフトビールの魅力にすでに取り憑かれた人」だけです。

こう反論したくなるかもしれません。

「クラフトビールにはたくさんの種類がある!だから面白いんだ!」

気持ちはわかります。僕もそう思いたい側だから。でもそれを言ったらおしまいです。

なぜならそれは、クラフトビールはピルスナーというフィールドだけでは勝てないと言っているのと同じだからです。

種類が多いからクラフトビールの方が優れているという主張は、ピルスナーという1種類では価値を持てないという考えの裏返しです。

今、目の前にある現実は、

「クラフトビールを初めて飲む人にとって、大手ビール会社が作るピルスナーとクラフトブルワリーが作るピルスナーの違いを、価格以外で感じ取ることは難しい」

ということ。これを受け入れなければならなりません。

逆にいえば、大手のビールはやっぱり素晴らしいということになります。手垢のついた話題ですが、クラフトビールを一周楽しんだ人々が行き着く先は、昔ながらのラガーだったりするものです。

(僕たち20代は、初めて飲むビールがクラフトビールという人が実は多い。そのような世代に、大手のビール会社に対するカウンターカルチャー的な思想はもはや響かないでしょう。)

といろいろ考えているうちに、消費者のためを思えば、大手のピルスナーを置くことは、良いことなんじゃないかと思えてきたのです。クラフトビールも美味しいし、やっぱり大手のピルスナーも美味しい。そんな雰囲気はあって良いと思います。

ただし、クラフトブルワリーのピルスナーを置くかどうかと問われれば、まだ答えは出せません。僕はもちろんクラフトビール業界側の人間なので、クラフトブルワリーが作るピルスナーが美味しいことは分かっているし、その素晴らしさを広めていくのが仕事だと思っています。が、クラフトビール初心者がペルソナの範疇に入っているとなると、話は別です。

もし僕の開くお店に来ていただけるなら、タップリストやボトルリストをよく見ていただきたいです。そこには必ずセレクトした理由と思想が含まれているからです。

何を考え、何を伝えたいのか、お店のパーツ一つ一つに理由があります。興味があったら、気軽に聞いてみてくださいね。

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