【上級者向け】ビアバー店員がクラフトビールのビアスタイルを浅く広く解説【14選】

この記事では、上級者(≒クラフトビールをよく知っている方)向けに、いくつかの ビアスタイル について解説します。個人的な印象や見解を含みます。

解説の前に

ビアスタイルは、大カテゴリー、中カテゴリー、小カテゴリー…と細分化されていきますが、今回は特にカテゴリーの階層を分けず、都内のビアバーでたまに見かけるスタイルについてまとめています。発酵に関する用語や、そのスタイルを説明するために必要となる前提知識は省いています。

このブログでは、初級者~中級者に向けてビアスタイルの解説もしていますので、合わせてご覧ください。

初級者~中級者のビアスタイル解説の記事は、クラフトビールをこれから飲み始める方に向けて、シェアしていただけると大変嬉しいです!

上級者向け ビアスタイル 14選

それではいってみましょう!!五十音順に並んでます。

アルト(Alt)

アルト(Alt)は、ドイツはデュッセルドルフ発祥の、カッパーからダークブラウン系の色をしたエールビール。ノーブルホップ由来のふくよかな苦味を伴い、トースト香がはっきり感じられるスタイルです。クラフトビールというよりかは伝統的なビアスタイルであり、日本でもドイツ系のビアホールなどにいけば比較的簡単に見つけることができる印象。

最近のクラフトビアギークのあいだで、ホップフォワードなビールに飲み疲れた人がピルスナーやESB、アルトなどに回帰していくといった流れの中で、アルトというビアスタイルが再評価を受けていると個人的には感じます。

ウィートワイン(Wheat Wine)

ウィートワイン(Wheat Wine)は、北アメリカ発祥のスタイル。どっしりとしたボディと蜂蜜を思わせるようなフルーティさを持つエールビール。小麦麦芽を50%以上使用しなければならないという縛りがあります。日本でも季節限定でリリースするブルワリーがいくつかあります(神奈川県のサンクトガーレンや、静岡県のベアードビールなど)が、多くは秋〜冬のあいだ季節限定か、スポットで生産されるレアビールという印象。

オールドエール(Old Ale)

オールドエール(Old Ale)はイギリス発祥の長期熟成ビール。赤褐色から黒ダークブラウンまで色はさまざま。長期熟成によるフレーバーの現出が前提となっていて、ホップの感触はなく、カラメル香や樽由来のファンキーな香りが感じられます。しばしばストロングエール(Strong Ale)と混同されますが、ストロングエールは長期熟成を前提としない(長期熟成する場合もあるが)点でオールドエールとは一部異なっています。

グレープエール(Grape Ale)

グレープエール(Grape Ale)は、副原料にグレープを使用したビールの総称です。タンクに貯蔵する段階でグレープの搾りかすやグレープ果汁を入れたり、ワインとブレンドしたりすることでグレープエールと呼ばれるようになります。はっきりとした定義はまだ定められていないようですが、果汁や果皮、果肉を使用するという点で、シェリーやコニャック、ワイン樽で後熟させただけのビールとは明確に区別があります。

グリゼット(Grisette)

グリゼットは、セゾンとよく似たビアスタイルの一種で、南ベルギー発祥の低アルコールで軽やかなボディのエールです。一般的に小麦や小麦麦芽を使用します。ホップフォワードではなく、セゾン酵母由来の穏やかなエステルがよく感じられる印象です。

セゾンは農業従事者のあいだで飲まれていたのに対し、グリゼットは鉱山労働者のあいだで飲まれていたことは有名です。セゾンは18世紀ごろに大きく登場。やがて近代化するヨーロッパでは鉱山の採掘活動が活発になり、グリゼットもしだいに普及していったとのことです。グリゼットの名前の由来に関しては、諸説あります。(1)当時は灰色がかった液色だったから(Grisはフランス語でgrayを意味する)(2)鉱山労働者にビールを提供する女性のドレスが灰色だったから(3)鉱山で採掘する石が灰色だったから、等。

グローズィスキー(Grodziskie)

グローズィスキー(Grodziskie)は、ポーランド発祥で、小麦麦芽のみを使用したエールです。燻製された小麦麦芽を使用していて、強い燻製香があります。苦味は中程度で、アルコール度数は約3%ほど。色はかなり淡い黄色なので、見た目と飲んだ感触にギャップがあり、かなり驚くと思います。

グローズィスキーは少なくとも17世紀から作られていて、19世紀末にドイツ系の醸造家が参入し醸造量が急増。その後、2度の大戦を経てポーランドは共産主義圏に取りこまれます。しかしソ連崩壊から数年後の1993年に、国有化されていたグローズィスキーを生産する最後の醸造所が閉鎖してしまい、現代ではほとんど失われたビアスタイルとなりました。

しかしながら、日本ではポーランド出身の醸造家、現在はHino Brewing(滋賀県)ヘッドブルワーのショーン・フミエンツキ氏が3周年ビールとしてグローズィスキーを復刻させたり、静岡県のWest Coast Brewingが同スタイルをリリースしたりと、現代シーンでも少し動きがあります。

コールドIPA(Cold IPA)

コールドIPA(Cold IPA)は、ラガー酵母を高い温度帯で発酵させた、ホップフォワードでドライなラガーです。生みの親とされるのは、2016年創業のポートランドのブルワリー、ウェイファインダー(Wayfinder Beer)。Hazy IPAへのアンチテーゼがコンセプトで、West Coast IPAのような力強いホップ感と、ラガーのようなクリーンさを持ち合わせています。

製法的にはIPLと似通っているので、「呼び方をCold IPAにしただけで、結局IPLやWest Coast Pilsnerと同じでものではないか」という物議がありますが、この話に決着が着くことはないでしょう。個人的に、ビアスタイルの論議は(審査会以外の場面では)不毛だと思っています。

バルチックポーター(Baltic Porter)

バルチックポーターは、バルト海周辺諸国(ラトビア、リトアニア、エストニア)で醸される、ややハイアルコールで、かなり濃い色をしたラガーです。(ブラウンポーターやロブストポーターはエール。)18世紀~19世紀、バルト三国と交易していたロンドンのポーター(荷物を運搬する労働者)に好んで飲まれたことから、バルチックポーターと呼ばれることになったそう。

フレーバーはチョコレートやナッツ、コーヒーのようなニュアンス。通常は数ヶ月から1年ほど熟成されます。

ファームハウスエール(Farmhouse Ale)

明確に定義するとなると難しいところですが、南ベルギーを発祥としたセゾンやグリゼット、文化や地理的に近しいフランスのビエールドギャルドなどを中心に広まった、ややドライで酸味を伴う(こともある)ミディアム~ライトボディなエールの総称、になると思います。ブリュッセルのランビックを含めるかどうかには議論の余地があるようですが、大体はそんな感じで合っていると思います。

起点はベルギーやフランスですが、北欧やバルト海の諸国でも生産され、現代(20世紀末以降)の事実上アメリカを中心としたクラフトビールシーンの中においても、しっかりと存在感のあるビールです。アメリカでファームハウスエールを得意としているブルワリーは、Tired Hands(ペンシルベニア州)、Jester King(テキサス州)、Oxbow(メイン州)、Hil Farmstead(バーモント州)など。

ファロ(Faro)

ファロ(Faro)は、純粋なストレートランビックに砂糖を加えて酸味をマイルドにしたもので、ランビックの一種です。

砂糖を入れることで容器内で発酵が進み、発生した二酸化炭素によって容器が破裂してしまうので、ブリュッセルの醸造所か醸造所の近くのビアカフェでしか飲用されません。(または低温殺菌/酵母濾過という処理が施されます。)当時のストレートランビックは、醸造所の夏場の温度管理が甘かったため、乳酸菌が発生しやすく、非常に酸味があったそう。グーズの人気とともにファロの人気は次第に下降し、さらに20世紀頃からピルスナーの人気が急激に高まったことによってランビック自体の需要が減っていったようです。そういった流れの中で、現在商業生産されているファロは激減しています。(参考 『ランビック ベルギーの自然発酵ビール』山本高之)

有名なものだとBoon Faroなど。 日本にはほぼ輸入されていません。ベルギーに行くことがあれば、ぜひ飲んでいただきたいスタイルの一つです。

フーダービール(Foeder Aged Beer)

フーダービール(Foeder Aged Beer)は、フーダー/Foederと呼ばれる木製のタンクを使用して作られるビールの総称です。表記の方法として、「Foeder Aged (ベースのスタイル)」と書かれる場合があります。(例:Foeder Aged Saison、Foeder Aged Helles Lagerなど)ワイン系の邦訳されている記事だと、「フードル樽(Foudre)」と表記されることがあります。

ベースのビアスタイルによってアロマやフレーバーの現れ方が変わります。多くの場合、フーダーを介在することによって、ウッディーな香りや、タンク内部に住み着いたバクテリアの影響によるブレット感が加わります。

このブログで詳しく解説しているので、以下ご覧ください。

フランコニアンスタイル・ロートビア(Franconian-Style Rotbier)

フランコニアン・ロートビア(Franconian-Style Rotbier)はニュルンベルク発祥、赤褐色でノーブルホップのほのかな香りと、柔らかいトースト香とモルティな甘みが特徴のラガー。ヴィエナラガーやメルツェンが好きな方からすれば、すでに知っている方も多いと思います。

ブラゴット(Braggot)

ブラゴット(Braggot)は、主原料にモルトと蜂蜜の両方を使用したビアスタイルです。詳しく記事にしましたので、こちらをご覧ください。

ミルクシェイクIPA(Milkshake IPA)

ミルクシェイクIPA(Milkshake IPA)は、フィラデルフィアのブルワリー、タイアードハンズ(Tired Hands)とスウェーデンのブルワリー、オムニポロ(Omnipollo)のコラボによって生まれたIPAで、ラクトース(乳糖)やバニラ、チョコレート、ナッツ、コーヒー、グアバ、パッションフルーツ、マンゴー、桃、ラズベリーなどを用いたHazy IPAの一種です。

ハンバーガーとのペアリングが抜群で、フルーティーさともったり感を合わせ持つ、前衛的なビアスタイルです。

あとがき

こんな記事を書いておいて言いにくいのですが、目の前にあるビールと一対一で向き合い、感性を研ぎ澄ませながら堪能するその瞬間においては、ビアスタイルという概念は「呪い」であると確信しています。ビアスタイルという枠組みから外れているか否か思案することなど、目の前の液体を堪能する場面においては不毛、というのが筆者の考えです。ビアスタイルは参考程度に、美味しかったビールを記憶するためのツールとして使った方が良いと思います。

話が逸れましたね。

この記事を最後まで読んでいただいた方は、きっとクラフトビールをすでによく知っていて、もっと知りたい!新しいものがあったら飲んでみたい!という方が多いと思います。

そんなあなたに!筆者は数年後にクラフトビール専門のバーを開こうと思っています。もし興味がおありでしたら、このブログで開業までの経緯をちょくちょく発信していくので、ぜひ今後ともご購読お願いいたします!

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