【クラフトビール】バレルエイジとは?木樽熟成に使われる樽の種類を、元ウイスキーパブ店員×元ブルワーが解説します【保存版】

ある程度クラフトビールを飲み慣れてくると、バレルエイジドビールと呼ばれる、木樽で熟成されたクラフトビールに出会うことがあります。(バレルエイジド Barrel Aged = バレルエイジ Barrel Ageされたという意味)

ビールの説明書きに「Bourbon Barrel Aged」「Aged in Cognac Puncheon 12month」「Sherry Butt Aged」と書いてあるのを見て、「で、結局どう味が変わるの?」と思ったことがある方は多いのではないでしょうか。

今回は、その木樽の種類と、木樽がバレルエイジを通じてビールに与える影響を、できるだけ丁寧に解説していきます。

実は僕、お酒はウイスキーから入門した人間です。大学時代はウイスキーを数多く扱うスコティッシュパブで3年間アルバイトしていました。シングルモルトウイスキーは樽の種類が非常に豊富なので、樽についてはそこでかなり叩き込まれました。その後ブルワリーで品質管理やパッケージングの仕事をし、今は渋谷のビアバーでカウンターに立っています。

元ウイスキー飲みとして、元アシスタントブルワーとして、そして現役ビアバー店員として——三つの視点からバレルエイジの世界をご案内します。

本編は「4. 酒類別の樽 / バレルエイジの風味的影響について解説」なので、お急ぎの方は目次からスキップしてください。

樽の材質について

ビールのバレルエイジでは、樽の材質というよりは「何のお酒が入っていたか」によって風味が左右される部分が大きいです。しかし、樽の材質による影響も少なくないので、オーク材(楢/ナラの木からできた材木)について触れておきます。

オークは密度が高く、耐久性や耐水性に優れているため、樽材として理想的な木材です。ここでは有名なオーク材を3つ取り上げます。

アメリカンオーク(ホワイトオーク)

アメリカンオークは、主にバーボン樽に使用されます。タンニンを多く含み、バニラやキャラメルのような風味を持たせます。樽の内側を焦がすこと(チャー)で、独特の力強い風味をもたらします。通常は樹齢100年〜150年くらいのものを使用します。

ヨーロピアンオーク

ヨーロピアンオークは、ワイン樽やシェリー樽を製造する際によく使われます。スパイス、ナッツ、ドライフルーツのような香りを持ちます。スペイン、ポルトガル、フランスなどに自生する樹齢200年〜300年程度のオークを伐採し、木樽が作られます。フランスで採れるナラの木を使用したフレンチオークや、スペイン北部で採れるナラの木を使用したスパニッシュオークなどが有名です。

ミズナラオーク、その他

ミズナラオークのミズナラは、北海道で伐採される水楢のことです。水分を多く含むため加工が難しく、完成した樽の価格が高くなる傾向にあります。同時にこの木材から発せられる東洋的な香りが人気を博し、樽自体やこの樽で熟成したハードリカーの希少性はどんどん高くなっています。香りはよく白檀やお線香に例えられます。ココナッツやほんのりスパイシーな香りを持つこともあるようです。

パブ時代に初めてミズナラカスクのジャパニーズウイスキーを飲んだとき、「これは何の香りだ?」と本気で戸惑った記憶があります。ウイスキーの文脈でお線香の香りがする体験は、当時の僕にはかなり衝撃的でした。(といっても、ミズナラカスクの原酒は全体量に対してごくわずかのブレンド量であることもあるので、本当にその芳香がミズナラ由来なのかは怪しいです)

樽にはさまざまなサイズがある

ひとことで樽といっても、いくつかのサイズがあります。

呼び方樽の容量
バレル(Barrel)190L ~ 200L
ホグスヘッド(Hogshead)225L ~ 250L
パンチョン(Puncheon)450L ~ 500L
シェリーバット(Sherry Butt)475L ~ 500L
ポートパイプ(Port Pipe)550L ~ 650L
マデイラドラム(Madeira Drum)600L ~ 650L

小容量のクォーターカスクやワインに使われるバリックなど、他にもいくつかありますが、ビールのバレルエイジに使用される樽は上記の表に載っているものくらいでしょう。

バレル(Barrel)

バレルは、ウイスキーを熟成させるための標準的な大きさの木樽です。バーボンウイスキーが入っていたものはバーボンバレルと呼ばれます。アメリカの法律では、バーボンバレルは一度ウイスキーの熟成に使用した場合、もう一度バーボンを詰めることができないので、空き樽はスコッチウイスキーやジャパニーズウイスキー、ビールの樽熟成などに使われます。

ホグスヘッド(Hogshead)

ホグスヘッドは、バーボンバレルを一旦解体して組み直した木樽です。解体することで北米からスコットランドへの輸送効率を上げたり、組み上げる際に胴回りを少し大きくさせることで貯蔵効率を高めたりしています。

パブ時代にお客さんから「バレルとホグスヘッドって何が違うの?」と聞かれた回数は数え切れません。答えは「中身は同じ木材、サイズが少し違うだけ」です。

パンチョン(Puncheon)

パンチョンは、多くはシェリー酒に使用される木樽です。スパニッシュオークで作られたものが多いです。

シェリーバット(Sherry Butt)

シェリーバットは、シェリー酒を熟成させるための一般的な木樽です。単にバットという場合もあります。パンチョンと同様、スパニッシュオークから作られることが多いです。

ポートパイプ(Port Pipe) & マデイラドラム(Madeira Drum)

ポートパイプは、ポートワインを熟成させるためのやや大型の樽です。スコッチウイスキーの最後の香り付けとして数年間使われることもあります。マデイラドラムも同様、マデイラワインを熟成させるために使われます。

以下参考記事。

フーダー(Foeder)

そしてバレルエイジの文脈で忘れてはならないのが、フーダーです。

フーダーは上の表に載せた樽とは桁違いのサイズで、数百リットルから数千リットルに達する大型の木製タンクです。ランビック醸造所でフーダーが天井まで積み上げられている光景は、ビール好きなら一度は見てみたい景色のひとつ。

フーダーは単なる容器ではなく、微生物の住処であり、醸造所の「味のDNA」が刻み込まれた生きた設備です。バレルエイジの樽が「前に入っていたお酒の記憶」を活かすのに対し、フーダーは「その醸造所固有の微生物の記憶」を活かす。ベクトルが違います。

フーダーについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をぜひ読んでみてください。

酒類別の樽 / バレルエイジの風味的影響について解説

この記事の本編です。ここからは木樽にもともと入っていたお酒の種類ごとに、バレルエイジがビールにどんな影響を与えるのかを解説します。

風味的影響の要素を特定する困難さ

前提として、ビールの風味はさまざまな要素が複雑に重なって形成されるものです。使用する水、モルト、ホップ、酵母、副原料や添加物、マッシュ時の温度、麦汁の煮沸時間、麦汁のpH、熟成期間、熟成温度、濾過の有無、輸送時の劣化などがその要素にあたります。したがって、バレルエイジによって与えられる液体への風味的な影響は確かにあるといえども、木樽のどの要素がどういう風味の形成に影響を与えているか(もしくは与えていないか)を精緻に特定することは困難です。

たとえば、ブラックベリーを使用したサワーエールを12ヶ月間フレンチオークのワイン樽で熟成させるとします。出来上がった液体をテイスティングすると、ブラックベリーや赤ワインのようなタンニン感を感じることでしょう。この「タンニン感」は、ブラックベリーが本来持つタンニンに起因するのか、フレンチオークが持つタンニンなのか、あるいは樽の内部に微かに染み付いた赤ワインによるものなのか——特定は困難です。

品質管理をやっていた視点で補足すると、だからこそバレルエイジドビールは「テイスティングノートを書く」ことが重要になります。感じた風味を言語化して記録しておくことで、ロット間の差異に気づけるし、次のバッチへの改善にもつながる。どの風味がどの要因から生まれているかを推理する習慣は、ブルワーにとって不可欠なスキルです。(ただ、テイスティングノートを書くという行為はどちらかというと「理論はブルワー」です。行き当たりばったりの「感性ブルワー」の方は、あまりメモを取らないでしょう。それが悪いということではないのですが。)

よって、以下で解説する風味的影響は「そのタイプの木樽を使用してバレルエイジした場合、あくまでそのような風味が現れる傾向がある」という程度に留まっていることをご理解ください。筆者の主観的な印象も含まれます。

ウイスキー樽熟成の場合

バーボン樽熟成 / バレルエイジド・インペリアルスタウト / 箕面ビール(大阪)

ウイスキー樽は、ウイスキーが熟成される地域によって分類できます(スコッチウイスキー、アイリッシュウイスキー、ジャパニーズウイスキー…etc)が、元を辿ればバーボン樽であることが多いので、ここではバーボン樽について主に書きます。

バーボンバレルエイジは、クラフトビール業界で最も多用されている樽熟成だと思います。バーボンが入っていた樽をブルワリーが買い取ることもあれば、バーボン樽が一度スコットランドに渡ってシングルモルトウイスキーに使われたのち、各ブルワリーに行き着くという流れも考えられます。とにかくバーボンの熟成は新樽で行わなければならないので、バーボン熟成を終えて役目を終えた樽は比較的手に入りやすいという事情があります。

バレルエイジの影響は、結構わかりやすいと思います。アメリカンオーク(ホワイトオーク)由来のバニラのような香りやチャーによる力強い樽香が、バレルエイジしたビールにもそのまま引き継がれる印象です。ベースのスタイルはバニラ系の香りと相性の良いインペリアルスタウトやバルチックポーター、ファームハウスエール、フルーツ系の重めなサワーなど幅広くカバーしています。

副原料にわざとココナッツやバニラ、コーヒーなどを用いて、それを樽由来のバニラ香や樽香で増強するといった狙いがあるのではないかと推察したりもします。いずれにしろ、バーボンバレルエイジによって与えられる風味は、バニラ、ココナッツ、ウッディな香りに例えられます。

バーでバレルエイジドのインペリアルスタウトを提供するとき、僕は「時間が経つと香りが開いてくるので、ぜひゆっくり召し上がってください」と声をかけます。冷蔵庫から出した直後は樽香が閉じていて、ただ重いだけのビールに感じがちです。でも10分、15分と温度が上がるにつれて、バニラやキャラメル、チョコレートの香りがグラスの中で次々と開いていく。まるでウイスキーのテイスティングのように、温度変化で表情が変わる。バレルエイジドビールは「待てる人」のためのビールです。店が混んでいたらゆっくり飲んでとは言いませんが(笑)

ワイン樽熟成の場合

シャルドネ樽熟成 / H.C. Andersen – Belgian Wild Ale / Mikkeller(デンマーク)

バレルエイジでワイン樽を使用した場合、赤ワイン樽なのか白ワイン樽なのか明記されることが多い印象があります。シャルドネやリースリングなど、ブドウの品種も明記されることがあります。

赤ワイン樽

赤ワイン独特のボディを感じる酸味や、ブドウの渋みを感じます。ベースのスタイルは、サワー系や黒ビールなどが多い印象があります。酒精強化ワインほどアルコール度数が高くないので、ブドウ系のアタックが強くない分、ウッディな香りがより引き立たされているビールによく出会います。

白ワイン樽

赤ワインとはうってかわって、スパイシーで透明感のある甘みが出ます。ベルジャン系ビールの、酵母由来の洋梨やバナナのような香りと非常によくマッチするからか、セゾン系のビールがベースのスタイルとしてよく用いられている印象です。

酒精強化ワインの樽熟成の場合

左 Oude Geuze Barrel Selection Madeira Edition 2022 / Oud Beersel(ベルギー)、右 Oude Geuze Barrel Selection Porto Edition 2022 / Oud Beersel(ベルギー)

シェリー樽

シェリー樽でバレルエイジさせたビールは、説明書きにどの種類のシェリー樽なのかを明記することがあります。シェリーはヨーロッパでは広く飲まれているので、樽の種類の説明がスムーズに消費者に受け入れられているのだと推察します。

有名なのは辛口ワインのオロロソ、甘口で有名なペドロ・ヒメネスの樽です。バレルエイジしたビールにおいては、両者の違いによって風味的影響の差異が顕現することは少ないと思われます。バレルエイジによって生み出される風味は、レーズン、カラメル、アプリコット、糖蜜のような風味、やや胡椒のようなニュアンスが感じられます。

この風味に合わせるように、ベースとなるスタイルはインペリアルスタウトなどの重厚なハイアルコールなダークビールやバーレイワインが多い印象があります。ハイアルコールにすることで、樽熟成中に雑菌に汚染されるのを防ぐという狙いもあります。

パブ時代にシェリーカスクのスコッチを数え切れないほど注いできた経験があるので、シェリー樽熟成のビールを飲むと「あ、これオロロソなのかな」と反射的にわかることがあります。ウイスキーで培った嗅覚の訓練が、ビールのテイスティングにもそのまま活きている。これは自分でも面白いなと思います。(外れることももちろんあります)

ポート樽 & マデイラ樽

シェリーについで、世界三大酒精強化ワインに位置するポートワインとマデイラワインの樽は、作られるビールの量こそ少ないものの、バレルエイジによく使用される定番の樽です。風味はシェリーとほとんど差異がないといっていいと思います。レーズンやブドウの皮の渋みなど、元々の原料由来の風味を引き継いでいることが多い印象です。

ブランデー樽熟成の場合

一部コニャック樽熟成 / From Beyond / Oxbow(アメリカ)

ブランデーの中でも、特にコニャック樽がビールのバレルエイジとして使われる印象がありますが、かなり流通量が少ないです。コニャックはブドウから作られる蒸留酒なので、バレルエイジするとブドウ由来のフルーティさ、渋みを主軸に感じます。他に感じるとするなら、レーズン、リンゴのコンポート、カシス、プルーンのようなニュアンス。個人的にはブドウの皮っぽい、少しビターなニュアンスを感じます。

ラム樽熟成の場合

ラム樽熟成 / Old Primeval / Bellwoods(カナダ)

ラム樽熟成をすると、グッと甘みが引き締まるような印象があります。フルーツに例えると、イチジク、熟れたバナナ、ドライフルーツのアプリコット、糖蜜等。ラムもスコッチウイスキー同様、バーボン樽から熟成されることが多く、アメリカンホワイトオーク特有のバニラ香を感じることが多いようです。

これは完全に推測ですが、ラムはサトウキビから作られている=飲み手のイメージの中に漠然と「ラムは甘いもの」という要素があるので、そのイメージを崩さないようにビール自体もフルボディで甘めに作る、という傾向があるように思います。フルボディにする主な理由は、ラム樽の香りにビールが負けないようにするため、かもしれませんが。ラム樽熟成のビールも、流通量少なめです。

あとがき:木樽の魔法の先にあるもの

「クラフトビールは100種類以上ある」という文句は、耳にタコができるくらい聞いたことがあると思いますが、あくまでそれは中小カテゴリーまでの話。バレルエイジに使われた樽の種類まで考えて細分化していくと、それを上回る数のスタイルがあることがわかります。

それと同時に、クラフトビールは他の酒類との組み合わせによって、他の酒類との境界線が非常に曖昧になりえる性質を持つことがわかりました。シードルやワインをビールとブレンドしたり、清酒酵母を使用したり、その自由さこそがクラフトビールファンがクラフトビールファンで居続ける理由のひとつです。

そして、その「木樽の魔法」が最も長い時間をかけて、最も予測不能な形で発揮されるビールがあります。ワイルドエールです。

バレルエイジドビールの多くは、数ヶ月から1年程度で樽から出されます。しかしワイルドエールの世界では、木樽の中で1年、2年、3年と野生酵母が活動し続け、樽の微生物と液体が対話を繰り返す。バレルエイジが「前の酒の記憶を活かす技術」なら、ワイルドエールの木樽熟成は「微生物と時間に委ねる哲学」です。

僕がワイルドエールに人生を賭けたいと思った理由のひとつは、まさにこの木樽の中で起きている出来事の壮大さにあります。ウイスキーの樽で学んだこと、ブルワリーの品質管理で学んだこと、バーのカウンターで感じたこと——全部がワイルドエールの一杯に集約される感覚があるのです。

ワイルドエールについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をぜひ読んでみてください。

2028年、ワイルドエールとシャルキュトリのペアリングを主軸にした小さなバーを東京に開きます。その道のりはこちらで発信しています。

この記事を読んでいただいて、少しでもクラフトビールを楽しむ要素が増えたなら嬉しいです。ご友人や知人にクラフトビール好きな方がいらっしゃったら、ぜひシェアをお願いします。

この記事を書いた人
さとし

ブログ歴4年ほど、渋谷のクラフトビールバーで働く28歳。元アシスタントブルワー。2028年頃にワイルドエールをテーマにしたバーを開業する予定です。好きなビアスタイルはランビック。

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ビアバーのカウンターから、最高の一杯を。

元ビール工場スタッフで、現在は渋谷のビアバー店員として毎日ビールを注いでいます。
知識だけじゃない、現場の空気感や「本当の美味しさ」を伝えたくてこのブログを始めました。
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