デンマーク発、ポップなビールのパイオニア——ミッケラー / Mikkeller を現役スタッフが語る

僕は今、渋谷のMikkeller Tokyoでカウンターに立っています。

毎日、タップからビールを注ぎ、お客さんと会話し、新しい銘柄が届くたびにテイスティングし、ミッケラーというブランドの「中」で働く日常を過ごしています。だからこそ断言できることがあります。ミッケラーは、外から見るのと中から見るのでは、良い意味で少し印象が違うブルワリーです。

「デザインが可愛いビールの会社でしょ?」——半分正解で、半分足りない。デザインの裏にある哲学、自由でカオスな接客文化、そしてワイルドエールやインペリアルスタウトへの本気の情熱。ファンとして好きだったミッケラーに、スタッフとして入って初めて見えた景色を、この記事でお伝えします。

ミッケラーの基本情報

ブルワリー名ミッケラー
英名、別称、通称等Mikkeller
本社デンマーク
生産拠点主にベルギーのプルーフ醸造所で委託生産。自社醸造所はコペンハーゲン、ニューヨーク(2020年閉鎖)、サンディエゴ(2022年閉鎖)
設立年(創業年)2006年
主力商品バーストIPA、ビジョンズラガー、スポンタンシリーズ、ビアギークシリーズ等
理念Challenge people’s taste buds and the concept of good beer.
インポーターウィスク・イー、AQベボリューション、ミッケラージャパン

ミッケラーは2006年に、デンマークの高校教師だったミッケル・ボルグ・ビャーウソが自宅のキッチンでビールを作り始めたところから始まりました。当初は自前の醸造設備を持たず、他のブルワリーの設備を借りて醸造する「ファントムブルワリー」として世界に名を広め、そのビジネスモデル自体がクラフトビール業界に衝撃を与えました。

現在は総生産量の約90%をベルギーのプルーフ醸造所で委託生産しつつ、世界各地に自社のブリューパブや醸造拠点を展開しています。

ミッケラーの自社醸造所

ミッケラー バウヘイブン / Mikkeller Baghaven(2023年に醸造終了)

Baghavenは、ミッケラーのサブブランドとして2017年にコペンハーゲンでオープンした、サワーエールとワイルドエール専門の醸造所でした。12基の3,000L〜7,000Lサイズのフーダーと、50本以上の225Lシャルドネ樽を擁し、併設のタップルームはいつも多くの人で賑わっていました。

2023年をもって醸造は終了し、現在はタップルームのみの営業となっています。

醸造終了は残念なニュースですが、Baghavenが世に送り出したサワーエールやスポンタンシリーズが日本のビールファンに与えたインパクトは計り知れません。Baghavenのヘッドブルワーだった人物がその後立ち上げたInsight Cellarsは、現在ワイルドエール界で最も注目されるブルワリーのひとつになっています。ミッケラーの「挑戦して、変化して、次に繋げる」という姿勢は、拠点が閉じても人と知識を通じて脈々と受け継がれている。これはクラフトビール業界全体のダイナミズムそのものだと思います。

ミッケラー ブリューパブ ロンドン / Mikkeller Brewpub London

2019年にロンドンにオープンしたブリューパブ。一度に750L仕込みできる醸造設備を備え、大量生産というよりは地元に愛着のあるブリューパブという印象です。ロンドンのビールシーンは層が厚いですが、ミッケラーのデザイン力とブランドの個性で確固たるポジションを築いています。

ワーピッグス / Warpigs Brewpub

アメリカ・インディアナ州のブルワリー3 FloydsとMikkellerがコラボして生まれたブリューパブです。ホッピーな自家醸造IPAと、テキサススタイルのバーベキューフードが有名で、店舗もかなり大きい。コペンハーゲン旅行では外せないお店のひとつです。

「ビール × フード」のペアリングを店舗コンセプトの核に据えている点は、僕が2028年にやろうとしている「ワイルドエール × シャルキュトリ」の構想と通じるものがあり、個人的に強くインスパイアされている存在です。

ミッケラー サンディエゴ / Mikkeller San Diego(2022年に操業終了)

米国サンディエゴの生産拠点として、挑戦的なサワーエールやビアギークシリーズなどを醸造してきました。2016年にAleSmith Brewing Companyの醸造所を引き継ぐ形で操業を開始しましたが、コロナの影響で経営に打撃を受け、2022年に操業をAleSmithに戻し事実上閉鎖。これに伴い、ミッケラーバー第2号店のMikkeller Bar San Franciscoも2022年10月に閉店しました。

ただし、AleSmithは今後もMikkellerのビールを作り続け、Mikkellerは米国市場から撤退することはないとのこと。拠点の形は変わっても、ブランドは生き続ける。ファントムブルワリーとして始まったミッケラーらしい、柔軟な生存戦略だと思います。

ミッケラー × ニュージーランド / Mikkeller New Zealand(Garage Projectとの提携)

ミッケラーの最新の動きのひとつが、ニュージーランドのGarage Projectとの醸造パートナーシップです。

紅海情勢の悪化によるスエズ運河経由の輸送遅延を受けて、アジア市場向けのビール供給を安定させるために、ミッケラーはニュージーランドでの委託醸造という選択をしました。Garage Projectでは、ミッケラーのレシピをベースにしながら、Nelson SauvinやMotuekaなどニュージーランド産ホップを取り入れた「NZスピン」のビールを醸造しています。ホッピーピルスナー、West Coast IPA、Hazy IPAなどがリリースされており、単発ではなく継続的な醸造関係を見据えているとのこと。

地政学的リスクへの対応として新しいパートナーを見つけ、しかもその土地ならではのホップを活かしたローカライズを行う。世界各地の委託先の強みを最大限に引き出すミッケラーのファントムブルワリー精神が、ここでも発揮されています。NZホップのフレッシュな果実感を纏ったミッケラーのビールは、アジア市場にいる僕たちにとっても楽しみな展開です。


中の人が語る、ミッケラートーキョーのリアル

ここからは、スタッフとして中にいるからこそ書けることを書きます。

「カウンターに立つ人間が、その日のバーの主役」

ミッケラーの接客哲学を一言で表すなら、これです。

マニュアル通りの説明をするのではなく、カウンターに立つスタッフが自分の言葉でビールを語り、自分のスタイルでお客さんをもてなす。「今日のタップ、僕のおすすめはこれです」と自信を持って言える自由がある。これがミッケラーの店の空気を作っています。

お客さんからよく言われるのは、「デザインが可愛いだけじゃなく、スタッフが気さくで最高」「入門向けから尖ったビールまで幅広くあって全く飽きない」という声です。実際、タップリストは定番のバーストIPAやホップショップHazy IPAから、スポンタンシリーズのようなランビックスタイルまで、幅が異常に広い。初めてクラフトビールを飲む人も、年間何百種類も飲んでいるギークも、同じカウンターで満足できる。これは他のビアバーではなかなか実現できないことです。

MBCT——東京が世界のビールの中心になる日

Mikkeller Beer Celebration Tokyo(MBCT)は、ミッケラー主催のビアフェスティバルで、海外から超レアなビールが多数来日するイベントです。

普段は輸入されないブルワリーのビールが、この日だけ東京で飲める。国内外のビールファンが一堂に集まって、朝から夜まで飲み続ける。スタッフとして参加すると、お客さんの熱狂がダイレクトに伝わってくる。「これを飲むためだけに東京に来た」という海外のお客さんもいるし、「ずっと飲みたかった醸造家のビールに初めて出会えた」と感動している方もいる。

MBCTの現場にいると、東京がクラフトビールの世界地図の中でどれだけ重要な位置にいるかを実感します。


このブルワリーの好きなところ——そして、僕の夢との接続

ミッケラーの好きなところを一つだけ挙げるなら、ランビックスタイルのビールに本気で取り組んでいるところです。

Baghavenシリーズは、ベルギーの伝統的なランビック製法に倣い、自然冷却(クールシップ)で野生酵母を取り込み、木樽で長期熟成させたビール。大規模なクラフトビール企業がこのスタイルに真剣にリソースを割いている事例は、世界的に見ても珍しい。Baghavenのフーダー群が生み出していたサワーエールの複雑さは、僕がワイルドエールに人生を賭けるきっかけのひとつでもあります。

Baghavenの醸造は終了しましたが、そこで培われた技術と哲学は、Insight Cellarsをはじめとする次世代のブルワリーに受け継がれています。そして僕自身も、ミッケラーのカウンターで毎日ワイルドエールやサワーエールを注ぎながら、2028年に自分の店を開く準備をしている。

ミッケラーが教えてくれたのは、「ビールは自由で楽しくあるべきだ」ということ。ファントムブルワリーという型破りな始まり方、デザインの力でビールの入口を広げたこと、拠点が閉じても柔軟に形を変えて生き続けること——その全部が、僕が目指すバーの姿と重なっています。

ワイルドエールの世界について詳しく知りたい方は、こちらの記事をぜひ読んでみてください。

2028年、ワイルドエールとシャルキュトリのペアリングを主軸にした小さなバーを東京に開きます。ミッケラーで学んだ「自由な接客」と「尖ったビールへの情熱」は、そのまま自分の店に持っていきます。


ブルワリー関連のInstagram

上記に加え、世界各地のミッケラーバーが各々Instagramを公開しているので、興味があればチェックしてみてください。いろんな国のいろんなスタッフの顔が見えます。

この記事を書いた人
さとし

ブログ歴4年ほど、渋谷のクラフトビールバーで働く28歳。元アシスタントブルワー。2028年頃にワイルドエールをテーマにしたバーを開業する予定です。好きなビアスタイルはランビック。

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ビアバーのカウンターから、最高の一杯を。

元ビール工場スタッフで、現在は渋谷のビアバー店員として毎日ビールを注いでいます。
知識だけじゃない、現場の空気感や「本当の美味しさ」を伝えたくてこのブログを始めました。
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