Foeder / フーダー とは何か?元ブルワーが解説します

出典: https://www.foedercrafters.com/

Foeder / フーダーとは

Foeder とは、木製のタンクのことを指します。形は様々ですが、円柱型のものが多く出回っている印象です。素材はホワイトオークで、現代的なポート(ビールを移送するときやタンクを洗浄するときに使うホースの接続部分)やマンウェイ(圧力に耐えうる楕円形の取り出し口)を装備しています。

どんな風味をもたらすか

醸造するビールのスタイルによって香気成分やフレーバーの現れ方が違うので一概にはいえませんが、野生的な風味や乳酸菌由来の酸味を感じられることでしょう。また、発酵の仕方によっては熟成を重ねるごとにドライな味わいになることもあります。

麦汁を煮沸・冷却したもの(ウォート)をフーダーに移送して主発酵させたり、主発酵はステンレスタンクで行ったのちフーダーに移送して熟成させたりと、様々な方法があります。

またフーダーに用いられるビアスタイルも様々です。もともと風味が豊かで樽熟成と相性の良いサワーやセゾンをフーダー熟成させたり、ヘレスやピルスナーといった比較的ドライなビールをステンレスタンクで主発酵させ、その後フーダーに移送して熟成させたりすることもあります。

熟成のメカニズム

新品のフーダーは、オーク由来のバニラ香やスパイシーなニュアンスが現れるようです。何回も使っていくうちにタンクの内壁に酵母や乳酸菌が住みつき、より複雑さが増します。

また醸造工程でブレタノマイセス属の酵母を用いることにより、酸素がゆっくりと侵入する状況下で通常のビール酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)では食べきれない糖(デキストリンなどの多糖類)をゆっくりと分解することによって、ドライで野生的な風味を生み出します。

他の樽熟成と比べてFoederが優れている点(ブルワリー視点)

スペースを取らない

例えばバーボン樽で20バレル(約2400L)のサワーエールを熟成させるとなると、樽を13個ほど用意しなければならず、重ねるにしてもスペースが必要です。その点、円柱状のフーダーを用いれば省スペースで済みます。

ポートの豊富さや洗浄の容易さ

木製とはいえ、ホースを接続するためのステンレスポートや、内部にシャワーボールと呼ばれる洗浄用の装置が付いています。複数の樽を熟成させる場合に比べ、樽詰めや瓶詰め時にホースの使用本数を少なくできたり、少ない回数で洗浄できることがメリットです。

通常の木樽熟成に比べると大量生産向き

複数の樽で熟成させる場合、ブレンドするためにサンプルをいくつも取らなけらばなりません。その点、フーダーで熟成させた場合は1つのサンプルコックからテイスティングして出荷の時期を見極められます。(もちろんフーダーであってもタンクの本数が増えれば増えるほど、ブレンドの技術が要求されます。)

フーダーは、ビールの量に対して液体が木に当たる部分が少ないので、小さな樽に比べゆっくりと熟成されます。つまり、複数の樽で熟成させる場合に比べて品質や風味にばらつきが少ないといえます。

Foederの主な製造元

ミズーリ州にある米国最大メーカー「Foeder Crafters」が有名です。今回の記事も、彼らの記事を参考に書いています。気になる方は下のリンクからどうぞ。

Foederの洗浄方法(余談)

フーダーは熟成を重ねるごとに微生物や酵母が住み着いて、ビールに様々なキャラクターを付けますが、腐敗と熟成は紙一重。タンクの内部はクエン酸や酸素系漂白剤、または高温の蒸気で雑菌を処理するそうです。(通常ステンレスタンクでは水酸化ナトリウムで洗浄しますが、フーダーでは木材が痛むので使用されないそうです。)この辺は詳しくないので今度ブルワーさんに会ったときに聞いてみます。

Foeder / フーダーを導入している国内ブルワリー

Anglo Japanese Brewery (AJB)野沢温泉/長野県

木樽熟成はもっと前から他のブルワリーで行われていましたが、フーダーを導入したのは国内初です。創業当初(2014年)からバレルエイジに情熱を持ち、2018年についに40バレルタンクを2基導入されました。ステンレスタンクで40バレルでも結構大規模なので、さすが熟成が得意なAJB、時代の先を行かれているという印象です。

(2023.04.06追記)

タンクは継ぎ足し製法だそうで、ある程度タンク内のビールが減ったら新しくビールを入れるとのことです。よって空になることはなく、内部の洗浄はしない(=乳酸菌などが住みつきやすい)そうです。

過去にはFoeder SaisonやFoeder Sour、Foeder Pilsなどがリリースされています。40バレルといえど、リリースされたらすぐに売れてしまうので今後の動向は要チェックです。

麦雑穀工房マイクロブルワリー 小川町/埼玉県

地元の素材や自分たちが畑で作ったものを原料として使用している麦雑穀工房(ざっこくこうぼう)さん。素晴らしいヴァイツェンを生み出す傍ら、移転後の2020年にフーダーを導入されました。

定期的にオンラインショップを更新されていて、運が良ければフーダーを使った「NaRa」シリーズが買えるかもしれません。もしくはタップルームにGO!

箕面ビール 箕面/大阪府

老舗中の老舗ブルワリーでありながら、常に挑戦的なビールを作り続けている箕面ビールさん。(もちろん定番のピルスナーやW-IPAのクオリティは依然として高い。)2021年にフーダーを導入されました。

公式サイトのブログページでおそらく香緒里さん(社長)がフーダーとフーダーで熟成したビール「BATON」に関する記事を公開されているので、このブログを読むよりそちらを読んでください!優しい語り口で物語を読んでいるような気分になります。

湘南ビール 茅ヶ崎/神奈川県 (2024.01.12追記)

湘南ビール(熊澤酒造)さんでは、2022年頃にフーダーを導入、セゾンベースで最初のバッチをリリース。続いて2023年秋、山桃を使用したフーダエイジドのビールをリリースされています。

湘南ビール醸造長の筒井さんは、2006年入社の大ベテラン。筆者自身、まだ直接お目にかかったことはありませんが、業界の先輩として今後も背中を追いかけさせていただきます。楽しみです!

筒井さんのフーダーに関する記事はこちら。

Foederは新たな熟成のスタンダードになるのか

今後、(コスト問題はさておき)国内でフーダーを導入するブルワリーは増えると思っています。いやもはやこれは増えてほしいという僕の願いです。利便性と風味の複雑性を両立したフーダーがどんどん普及し、既存のレシピに「熟成」という概念が重要な要素として今よりももっとフォーカスされれば、クラフトビール文化は深みのあるものになると思っています。

レシピがあればなんでも作れるわけではありませんが、ある程度の設備と基本的なオペレーションの知識があれば美味しいビールは作れます。(偉そうなこと言ってすみません。)

ただクラフトビールの面白いところは、そのビールにブルワーたちのスピリッツが吹き込まれるところです。よくクラフトビールは大手に比べて「種類が豊富」であるということだけが注目されがちですが、本質的なクラフトビールの価値は「誰がどういう想いを持って醸したのか」にあると思っています

そういう意味で「熟成」という不確定要素は、数値的なものでは語れないブルワーの想いやスピリッツが宿りやすいものであるように思えます。

さいごに

いかがでしたか?フーダーに関する知識を少しでも深められたら、そしてそれがクラフトビールをより楽しむための一助になれば幸いです!今回は国内の4つのブルワリーだけほんのちょっとだけ紹介しました。どれも僕の好きなブルワリーで、もし興味があれば彼らのインスタグラムをチェックしてみてくださいね!

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