【クラフトビール】バレルエイジとは? 木樽熟成 / バレルエイジ に使われる樽の種類をビアバー店員が解説します【保存版】

ある程度クラフトビールを飲み慣れてくると、バレルエイジドビールと呼ばれる、木樽で熟成されたクラフトビールに出会うことがあります。(バレルエイジド Barrel Aged = バレルエイジ Barrel Ageされたという意味)

今回は、その木樽と、木樽がバレルエイジを通じて液体に与える影響について解説していきます。本編は「4.酒類別の樽 / バレルエイジの風味的影響について解説」なので、お急ぎの方はもくじからスキップしてください。

解説の前に

ビールの説明書きを見ると、「Bourbon Barrel Aged」「Aged in Cognac Puncheon 12month」「Sherry Butt Aged」などと記されていることがあります。これは、バレルエイジに使った樽についての情報です。

一般的にビールはステンレスタンクで熟成されますが、バレルエイジドビールは木樽で熟成されます。ブルワリーによっては、木樽で熟成したものをステンレスタンクに移して追熟成させたり、それとは逆にステンレスタンクで熟成したものを木樽に移して追熟成させたりする場合もあります。

バレルエイジに使われる木樽は、多くは別の酒類の熟成・貯蔵用に使用されています。それが空になり、新たにビールを入れて熟成させるという形態をとります。木樽熟成ビールの風味を深く読み解きたいのであれば、その木樽と、その木樽にもともと入っていた酒類に対する理解は必須かと思います。

ウイスキーやワイン、シェリーなどをよく知っていれば理解が早いと思うのですが、クラフトビールとそれら両方への理解があり、かつそれを言語化して体系的にまとめた記事は多くはありません。

筆者実は、お酒はウイスキーから入門した身なので、ウイスキーについてはある程度分かります。そしてシングルモルトウイスキーに使われる樽は種類が豊富なので、樽に関してもある程度わかります。(大学時代は、ウイスキーを数多く扱うスコティッシュパブで3年間アルバイトとしてお世話になりました。)

元ウイスキー飲みとして、元アシスタントブルワーとして、そして現役ビアバー店員としてなるべくわかりやすくまとめたつもりなので、ぜひご参考にしてください。

それではいってみましょう!

樽の材質について

ビールのバレルエイジでは、樽の材質というよりかは、何のお酒が入っていたかによって風味が左右される部分が大きいです。しかしながら、樽の材質による影響も少なくないので、オーク材(楢/ナラの木からできた材木)についても触れておこうと思います。

オークは密度が高く、耐久性や耐水性に優れているため(主にウイスキー樽を製造する際に)理想的な木材です。

今回は、有名なオーク材の仲間を3つだけ取り上げて解説します。

アメリカンオーク(ホワイトオーク)

アメリカンオークは、主にバーボン樽に使用されます。タンニンを多く含み、バニラやキャラメルのような風味を持たせます。樽の内側を焦がすこと(チャー)で、独特の力強い風味をもたらします。通常は樹齢100年〜150年くらいのものを使用します。

ヨーロピアンオーク

ヨーロピアンオークは、ワイン樽やシェリー樽を製造する際によく使われます。スパイス、ナッツ、ドライフルーツのような香りを持ちます。スペイン、ポルトガル、フランスなどに自生する樹齢200年〜300年程度のオークを伐採し、木樽が作られます。フランスで採れるナラの木を使用したフレンチオークや、スペイン北部で採れるナラの木を使用したスパニッシュオークなどが有名です。

ミズナラオーク、その他

ミズナラオークのミズナラは、まさに北海道で伐採される水楢のことです。水分を多く含むため加工が難しく、完成した樽の価格が高くなる傾向にあります。と、同時にこの木材から発せられる東洋的な香りが人気を博し、樽自体やこの樽で熟成したハードリカーの希少性はどんどん高くなっています。香りは、よく白檀やお線香に例えられます。ココナッツやほんのりスパイシーな香りを持つことがあるようです。

樽にはさまざまなサイズがある

ここでは木樽のサイズについて触れます。ひとことで樽といっても、いくつかのサイズがあります。

呼び方樽の容量
バレル(Barrel)190L ~ 200L
ホグスヘッド(Hogshead)225L ~ 250L
パンチョン(Puncheon)450L ~ 500L
シェリーバット(Sherry Butt)475L ~ 500L
ポートパイプ(Port Pipe)550L ~ 650L
マデイラドラム(Madeira Drum)600L ~ 650L

小容量のクォーターカスクやワインに使われるバリックなど、他にもいくつかありますが、ビールのバレルエイジに使用される樽は上記の表に載っているものくらいでしょう。

バレル(Barrel)

バレルは、ウイスキーを熟成させるための標準的な大きさの木樽です。バーボンウイスキーが入っていたものは、バーボンバレルと呼ばれます。アメリカの法律では、バーボンバレルは一度ウイスキーの熟成に使用した場合、もう一度バーボンを詰めることができないので、空き樽はスコッチウイスキーやジャパニーズウイスキー、ビールの樽熟成などに使われます。

ホグスヘッド(Hogshead)

ホグスヘッドは、バーボンバレルを一旦解体して組み直した木樽です。解体することで北米からスコットランドへの輸送効率を上げたり、組み上げる際に胴回りを少し大きくさせることで貯蔵効率を高めたりしています。

パンチョン(Puncheon)

パンチョンは、多くはシェリー酒に使用される木樽です。スパニッシュオークで作られたものが多いです。

シェリーバット(Sherry Butt)

シェリーバットは、シェリー酒を熟成させるための一般的な木樽です。単に、バットという場合もあります。パンチョンと同様、スパニッシュオークから作られることが多いです。

ポートパイプ(Port Pipe) & マデイラドラム(Madeira Drum)

ポートパイプは、ポートワインを熟成させるためのやや大型の樽です。スコッチウイスキーの最後の香り付けとして数年間使われることもあります。マデイラドラムも同様、マデイラワインを熟成させるために使われます。

以下参考記事。

フーダー(Foeder)

番外編として、フーダー / Foeder に関してもこのブログで解説しています。

酒類別の樽 / バレルエイジの風味的影響について解説

この記事の本編です。前段の内容と多少被りますが、ここからは木樽にもともと入っていたお酒の種類ごとに、木樽について解説していきます。特に、その木樽をバレルエイジに使った場合、どんなビールが出来上がる傾向にあるのかについてまとめます。

風味的影響の要素を特定する困難さ

前提、ビールの風味はさまざまな要素が複雑に重なって形成されるものです。使用する水、モルト、ホップ、酵母、副原料や添加物、マッシュ時の温度、麦汁の煮沸時間、麦汁のpH、熟成期間、熟成温度、濾過の有無、輸送時の劣化などがその要素に当たります。したがって、バレルエイジによって与えられる液体への風味的な影響は確かにあるといえども、木樽のどの要素がどういう風味の形成に影響を与えているか(もしくは与えていないか)を精緻に特定することは困難といえます。

例えば、ブラックベリーを使用したサワーエールを12ヶ月間フレンチオークのワイン樽で熟成させるとします。出来上がった液体をテイスティングすると、ブラックベリーや赤ワインのようなタンニン感を感じることでしょう。この場合「タンニン感」と表現される風味は、ブラックベリーが本来持つタンニンに起因するのか、またはフレンチオークが持つタンニンのものなのか、あるいは樽の内部に微かに染み付いた赤ワインによるものなのか、特定は困難だと思います。

よって、この節で解説する風味的影響は「そのタイプの木樽を使用してバレルエイジした場合、あくまでそのような風味が現れる傾向がある」という程度に留まっていることをご理解ください。加えて、風味の解説には一部筆者の主観的な文言が含まれることも、併せてご理解ください。

樽による風味的影響(酒類別)

ベースのビアスタイルが本来持つ風味を一旦抜きにして考えて、バレルエイジによってのみ作り出された風味を抽出して言語化しました。たぶん本当はそんなこと不可能なので、大部分は想像になります。ただ、どの風味の要素がどの要因によって作り出されるのか推理して考えることは、ビール作りの上では大切なことだったりします。良い風味を作り出す源泉になるのはもちろん、オフフレーバーの原因を特定する足掛かりになるからです。(そもそも読者にブルワーがいる前提←)

ウイスキー樽熟成の場合

バーボン樽熟成 / バレルエイジド・インペリアルスタウト / 箕面ビール(大阪)

ウイスキー樽は、ウイスキーが熟成される地域によって分類できます(スコッチウイスキー、アイリッシュウイスキー、ジャパニーズウイスキー..etc)が、元を辿ればバーボン樽であることが多いので、今回はバーボン樽について主に書きます。

バーボンバレルエイジは、クラフトビール業界で最も多用されている樽熟成だと思います。バーボンが入っていた樽をブルワリーが買い取ることもあれば、バーボン樽が一度スコットランドに渡ってシングルモルトウイスキーに使われたのち、各ブルワリーに行き着くという流れも考えられます。とにかくバーボンの熟成は新樽で行わなければならないので、バーボン熟成を終えて役目を終えたバーボン樽は比較的手に入りやすいという事情があるのでしょう。よってバーボン樽熟成はポピュラーなものになっています。

バレルエイジの影響は、結構わかりやすいと思います。アメリカンオーク(ホワイトオーク)由来のバニラのような香りやチャーによる力強い樽香が、バレルエイジしたビールにもそのまま引き継がれる印象です。ベースのスタイルはバニラ系の香りと相性の良いインペリアルスタウトやバルチックポーター、ファームハウスエール、フルーツ系の重めなサワーなど幅広くカバーしています。ビールに副原料が入っていてもバレルエイジによる風味は色濃く残るというか、むしろ、副原料にわざとココナッツやバニラ、コーヒーなどを用いて、それを樽由来のバニラ香や樽香で増強するといった狙いがあるのではないかと推察したりもします。いずれにしろ、バーボンバレルエイジによって与えられる風味は、バニラ、ココナッツ、ウッディな香りに例えられます

ワイン樽熟成の場合

シャルドネ樽熟成 / H.C. Andersen – Belgian Wild Ale / Mikkeller(デンマーク)

バレルエイジでワイン樽を使用した場合、赤ワイン樽なのか白ワイン樽なのか、明記されることが多い印象があります。シャルドネやリースリングなど、ブドウの品種も明記されることがあります。

赤ワイン樽

赤ワイン独特のボディを感じる酸味や、ブドウの渋みを感じます。ベースのスタイルは、サワー系や黒ビールなどが多い印象があります。のちに解説する酒精強化ワインほどアルコール度数が高くないので、ブドウ系のアタックが強くない分、ウッディな香りがより引き立たされているビールによく出会います。

白ワイン樽

赤ワインとはうってかわって、スパイシーで透明感のある甘みが出ます。ベルジャン系ビールの、酵母由来の洋梨やバナナのような香りと非常によくマッチするからか、セゾン系のビールがベースのスタイルとしてよく用いられているような印象。

酒精強化ワインの樽熟成の場合

左 Oude Geuze Barrel Selection Madeira Edition 2022 / Oud Beersel(ベルギー)、右 Oude Geuze Barrel Selection Porto Edition 2022 / Oud Beersel(ベルギー)
シェリー樽

シェリー樽でバレルエイジさせたビールは、説明書きにどの種類のシェリー樽なのかを明記することがあります。シェリーはヨーロッパでは広く飲まれているので、樽の種類の説明がスムーズに消費者に受け入れられているのだと推察します。有名なのは辛口ワインのオロロソ、甘口で有名なペドロ・ヒメネスの樽です。バレルエイジしたビールにおいては、両者の違いによって風味的影響の差異が顕現することは少ないと思われます。バレルエイジによって生み出される風味は、レーズン、カラメル、アプリコット、糖蜜のような風味、やや胡椒のようなニュアンスが感じられることでしょう。この風味に合わせるように、ベースとなるスタイルはインペリアルスタウトなどの重厚なハイアルコールなダークビールやバーレイワインが多い印象があります。(ハイアルコールにすることで、樽熟成中に雑菌に汚染されるのを防ぐという狙いもあります。)

ポート樽 & マデイラ樽

シェリーについで、世界三大酒精強化ワインに位置するポートワインとマデイラワインの樽は、作られるビールの量こそ少ないものの、バレルエイジによく使用される定番の樽です。風味はシェリーとほとんど差異がないといっていいと思います。レーズンやブドウの皮の渋みなど、元々の原料由来の風味を引き継いでいることが多い印象です。

ブランデー樽熟成の場合

一部コニャック樽熟成 / From Beyond / Oxbow(アメリカ)

ブランデーの中でも、特にコニャック樽がビールのバレルエイジとして使われる印象がありますが、かなり流通量が少ないです。コニャックはブドウから作られる蒸留酒なので、バレルエイジするとブドウ由来のフルーティさ、渋みを主軸に感じます。他に感じるとするなら、レーズン、リンゴのコンポート、カシス、プルーンのようなニュアンス。個人的にはブドウの皮っぽい、少しビターなニュアンスを感じます。

ラム樽熟成の場合

ラム樽熟成 / Old Primeval / Bellwoods(カナダ)

ラム樽熟成をすると、グッと甘みが引き締まるような印象があります。フルーツに例えると、イチジク、熟れたバナナ、ドライフルーツのアプリコット、糖蜜等。ラムもスコッチウイスキー同様、バーボン樽から熟成されることが多く、アメリカンホワイトオーク特有のバニラ香を感じることが多いようです。これは完全に推測ですが、ラムはサトウキビから作られている = 飲み手のイメージの中に漠然と「ラムは甘いもの」という要素があるので、そのイメージを崩さないようにビール自体もフルボディで甘めに作る、という傾向があるように思います。フルボディにする主な理由は、ラム樽の香りにビールが負けないようにするため、かもしれませんが。ラム樽熟成のビールも、流通量少なめです。

以上が個人的な印象を含めた、樽の酒類別、バレルエイジの風味的な影響の解説です。

あとがき

「クラフトビールは100種類以上ある」という文句は、耳にタコができるくらい聞いたことがあると思いますが、あくまでそれは中小カテゴリーまでの話。

バレルエイジに使われた樽の種類まで考えて細分化していくと、それを上回る数のスタイル/カテゴリーがあることがわかります。(定義として広く定着するかどうかは、また別の話です。)

それと同時に、クラフトビールは他の酒類との組み合わせ(今回はバレルエイジ)によって、他の酒類との境界線が非常に曖昧になりえる性質を持つことが分かりました。他にも、シードルやワインをビールとブレンドしたり、清酒酵母を使用したり等、非常に自由な性格を持っています。

その自由さこそが、クラフトビールファンがクラフトビールファンで居続ける理由の一つなのだと思います。

この記事を読んでいただいて、少しでもクラフトビールを楽しむ要素が増えたなら嬉しいです。もしご友人や知人にクラフトビール好きな方がいらっしゃったら、ぜひこの記事をシェアお願いします!

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